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ハッカ飴
【ボーイズ 恋愛小説】

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ペパーミントリキュール-1

僕は初夏のある日、谷町ユリに出会った。
そして、谷町健吾に出会ってしまった―――。

綺麗な体をして、可愛い顔をしていると評判の谷町ユリに僕が出会ったのは、部活の時間だった。

部活は美術部に所属している。
うちの美術部はコンクールを目指すでもなく、ただ皆で好き勝手に絵を描いたり、版画を彫ったりTシャツを作ったりする緩い部活だ。
それでも作品は必ず作らなくては除籍になるから、それなりに地味で真面目でゆったりした時間を楽しんだり、絵に没頭したりしたい人が集まる。

地味に緩く生きたい僕にはぴったりだし、結構人気がある部活だから地味すぎて目立つという事もない。

僕は部活が楽しかったし、気に入っていた。
上下関係も緩くてのんびりしているし、友達も出来た。僕は部活をしている時が一番気楽で楽しかった。

そんなある日だ。
谷町ユリが美術部に入ってきたのは。
「一年C組の谷町ユリです。よろしくお願いします」
そう言ってにこり、と微笑んだユリは確かに可愛かった。
僕は女の子を愛せないけれど、苦手だとか怖いとか嫌いだという事はない。
ただ愛せないだけ。
だからすんなりと、可愛いな、とは思う。
それはきっと、女性が女性モデルを可愛いとは思うけれどキスをしたい訳ではないのに似ているだろう。

ユリを見ながら、僕は自分がユリだったらさぞ幸せだろうと思っていた。
女性になりたい訳ではないけれど、告白はきっと今の僕より断然しやすいのだから。

視線に気付いたらしいユリが、こちらに近付いてきた。
「吉田良くん、でしょ?はじめまして」
「え?ああ、はじめまして」
僕はユリが自分の名前を知っている事に驚きながら、なんとか返事をした。
「リョウ君、て呼んで良い?」
首を傾げて言うユリ。恐らく断られた事はないんだろう。
ユリの言葉には「そう呼ぶから」と言う決定めいた響きがある。
僕はなんだか無性に腹が立った。
いきなり名前で呼ぶなんて、馴々しい。

「吉田君、とかで良いよ」
ユリは、きょとんとした。やっぱり断られた事がないんだ。

そう確信した僕に、ユリは想像もしていなかった事を言った。

「でもほら、美術部って吉田潤君も居たよね?私と同じクラスの」
「え?」
「同じ苗字だから、分かりにくいかなと思ったんだけど…」

頭をぽりぽりと掻きながら、ユリは少し困った顔をした。

「うん、でも良いか。潤君を名前で呼んで、吉田君は吉田君で」

そう決めると、ユリはまた微笑んだ。
「よろしく、吉田君」
それから他の部員のところに挨拶に行ってしまったユリを眺めて、僕はショックを受けていた。

ユリは可愛い。
だから、男に自分の要求を押しつける筈だ。
可愛い事を計算に入れて、男を名前で呼ぶ事で操って遊んでいる。
そんな風に、僕はユリにレッテルを貼っていたのだ。


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