第22話 研修、家禽への対処-1
〜 海合宿 ・ 朝の研修 〜
「む……んん……」
夏の太陽は回転が速い。 廊下に並んだ檻に日差しが指す頃、時計の針はまだ5時を回ったばかりだ。 【29番】は突然差し込んだ光に眉を顰めつつ、そっと重い瞼をあげる。
一列に並ぶ檻、檻、檻。 大型犬用のケージに身体を押し込んでいるのは、全部【29番】のクラスメイトで、サイズが小さいところに無理に入れられているため、みな土下座するように這いつくばっている。 ケージの蓋についたエボナイト製チューブを箝口具越しに嵌められ、また背後からも2本のゴムホースを肛門と尿道に挿入された姿は、さしずめ『牝の串刺し』といえよう。 前のチューブからは流動食が絶え間なく流し込まれ、一晩中嚥下を余儀なくされた。 また、後ろのホースはきつい吸引力を発揮するので、締めようと思っても肛門をこじ開けられるのは防げず、結果として細い軟便をひりだし続けざるを得なかった。 つまり、一晩中無理矢理食事と排泄を同時並行で継続し、栄養を摂取させられたわけだ。 少女たちは、睡眠不足によって朦朧とする意識とは裏腹に、身体はピカピカに艶めいていた。
(今日も……一日中……道具扱いされっぱなし、か……)
太陽光に励起された意識の底で、【29番】は溜息をついた。 昨日、バスを降りてから体験した『合宿の備品』という役割には、溜息以外出てこない。 家畜以下、家具以下、人格否定。 文化祭で高々と排泄した時に比べれば肉体的負担は少ないけれど、精神的苦痛は大概だ。 研修生たちがまっとうに活動する傍らで、自分たちだけが一際苛まれる状況は、ただ苛まれるよりも数段辛い。
(ふう……)
箝口具(はみ)ごしに息を吐き、呼吸を整えるうちに、数名の指導員が姿をみせる。 朝の早朝メニューを課している団体が『備品』を取りに来たのだ。 次々にケージが開かれ、首輪を引かれて檻を出る少女たち。
(うわ……あんな風になってるんだ……。 あたしのも同じなのかな……)
少女達は、どの股間もピンク色に色づき、一晩中ホースで吸引されたアナルとおまんこは、例外なく卑しくびっしょり濡れていた。 微かに身を捩って見れば、股間からクチュクチュと湿った音がする。 檻が狭いせいで自分の股間を見ることすら出来ないけれど、音から察するに、湿り具合では人後に劣る気はしなかった。
やがて【29番】の檻の前にも、すらりとした足が立ち止る。 ホースで栄養を抽入されながら上目遣いに見上げると、昨日散々手痛く扱った女性――専門学校の指導員――が、無表情で見下ろしていた。 白魚みたいな指先を伸ばし、檻をあけて【29番】を外へと導く。 喉奥まで埋まったゴムホースと下半身を覆ったホースを身体の前後から吐きだして、【29番】は大人しく檻を後にした。 すぐ隣には【2番】と【22番】の姿もある。
(はあ……朝練、あたし達にもあるのかぁ……)
ガックリ肩を落とすも、いつまでも朝の余韻に浸ってなんかいられない。 『備品』に感情は不要物だ。 無事に研修を終えて学園に戻るために、立派に『モノ』として振舞うことが、少女に課された全てだった。
……。
さて。 【29番】が所属する『調理師専門学校』は早朝練習として、最小限の調理器具による調理を課す。 この日は浜辺にて『おにぎり』を作ることになっていた。 炊きたての白米に具材を詰めて、焼き海苔で包みつつ一口サイズに握る、シンプルな、それでいておかずと御飯を同時に食す効率的な料理。
専門生たちには、それぞれに『おにぎり』の規格が知らされている。 即ち『サイズ』『形』『塩分濃度』『米粒の立ち具合』『重さ』『温度』『海苔』を調節し、指示通りの『おにぎり』を作ることになる。 朝練の時間は約1時間半。 その間に作らなくてはいけない個数は、1人につき『20個』だ。
悠長な作業でこなせる数では決してないが、ムリな数というわけでもない。 けれど、どの専門生にしても、切羽詰まった顔つきだ。 なにしろ『規格』が厳格で、僅かな誤差も認められない。 事前に指導員から告げられた許容範囲は、重さであれば誤差0.1g以内、塩分濃度であれば10ppm以内、サイズであれば直径0.1mm以内という、許容の表現とかけ離れたもので。 つまり、実質的には、ビタリ以外は認められない。 この水準で『20個』という数字がいかに厳しいかは、日々調理に精進する生徒達だけに、身に染みて理解していた。