桔梗のショー-1
日曜日、やはり里子は一時間早くやって来た。
今日は大沢もパイプをふかしておらず、じっと腕組みをしている。
隣の幸恵も神妙な顔つきだ。
「大沢さん」
「おお、早いな」
「心の準備が……」
「だろうな……わしもあれからCDラジカセを買ってやったよ、CDと洋服も少しな、あの娘はあの年頃の娘が欲しがるようなものを何一つ持っていないんだ」
「鰻がおいしいって涙ぐむんですものね……」
「本当だな、急に涙を流すから何事かと思ったが……いつも気を張って生きとるんだな、あの娘は……」
「そうですね、気丈に振舞ってますけど、優しくされたり嬉しいことがあると緩むんでしょうね……どうしても責めの矛先は鈍ると思います」
「構わんよ、あの小さな躰を縛った時点で既にSMだ、無理に責めなくてもいい」
「ええ……多分あんまりハードには出来ません」
「もしショーとして不都合があれば私を責めていただいても構いませんから」
幸恵もまだ会った事もない桔梗の体を案じている。
「ありがとう、幸恵ちゃん……でも上手くやるから」
「わしもゲストを呼んでいなければよっぽど中止にしようかと思ったよ……初めて連れて来られた夜は何をしても構わんような気分になっちまって思わず門村さんの話に乗ったんだが……」
「話してみるといい娘ですものね」
「ああ、あれだけ不幸な育ち方をしてるのに曲がってないんだからな」
「よほど悪い星の下に生まれて来てしまったとしか……」
三人同時に溜息をつく。
「だがな、どうも不思議なんじゃよ、確かにいきなりフェラされて驚いた、だが、わしはそれくらいで我を忘れるような事はないはずなんだよ、女遊びはさんざんしとるからな、だがあの時、あの娘を抱いちまうことに少しもためらいはなかった……後で考えるととんでもないことだったんだが……」
「少し分ります、何か独特の雰囲気……オーラって言うのかしら、それを持ってる事は確かですね……にっこり笑うと子供そのものなんですけど……」
「そうだな……今日はどんな予定なんだ?」
「何でもOKだって言ってましたけど……実際のあの娘を見た後では……」
「様子を見ながら……か?」
「そうなっちゃいます……ただ、体重が軽いから吊りはきつくないと思うんです、ですから吊りを中心にして見せるショーにしようかと」
「ああ、それでいいよ、無茶はしないようにな」
「はい」
しばらくすると井上が、その後から門村に連れられた桔梗がやって来た。
「この前はご馳走様でした、CDラジカセやお洋服まで……」
「良いんだよ、調子はどうだ?」
「鰻のおかげで元気一杯です、存分に責めて下さい」
「あ、ああ……衣装とかも準備してあるようだ、地下に行ってみてくれないか」
「はい」
桔梗が階段を降りて行く、一緒に降りようとする門村を大沢が呼び止めた。
「門村さん、まだ里子も着替え中だと思う、もうちょっと待ってくれ」
「ああ、そうですね」
「まあ、ちょっと掛けてくれ」
「桔梗のことですね?」
「ああ、この前は勢いで買うと言ったが……ああ、買わんわけじゃないよ、そこは安心してくれ……鰻屋での話は?」
「聞いてます」
「里子が一度見ておきたいと言うんで三人でメシを食ったんだが……いい娘だな」
「ええ、あれだけ不幸なのに」
「まるで曲がっていない……そうじゃろ?」
「ええ、本当にいい娘ですよ」
「里子も矛先が鈍ると言ってる、わしも無茶はさせたくない」
「ええ、お気遣いは有り難く思います……ただ」
「ただ?」
「始めてしまえば分ります……あの娘は本物ですよ、たぐいまれなMです、どのみちすごいショーにはなりますよ」
「そうか?……里子は娘のような気がするとまで言ってたぞ」
「始めてしまえば関係ないですね、プロのSと生粋のMの組み合わせです、止まりませんよ」
「そうか?……」
「大沢さんはあの娘を抱いた時に躊躇しましたか?」
「いや……しかし何故だろうな、いきなりフェラされて驚いたのは確かだが……」
「そういう娘なんですよ、八歳から本番ってのは伊達じゃありません、男をその気にさせちまうんです、私らのような極道でもみんなが可哀想な境遇に同情しますし、いい娘だと感心してるんですよ、でも桔梗が裸になれば誰もが夢中になってかぶりついちまうんです、血の気の多い連中だから普段は抱き応えのあるグラマーを好むんですが、それすら関係なくなっちまう……」
「だが、落ち着いて考えて見ると不憫になってな……」
「それは私も、ウチの若い衆も同じでしてね、ディズニーランドに連れて行ったこともあるくらいで」
「ほう? 門村さんがかね?」
「いや、連れて行ったのは若い衆で……軍資金は出しましたが」
「なるほどな、わしと同じような心境だな」
「それでも大沢さんにあの娘を一晩売ることにためらいは一切なかったですよ」
「そこのところが複雑なんだよ、わしも買うことにためらいはなかったからな」
「まあ、心配はありません、あらゆる責めを受けてきた娘ですから、どんなハードな責めでも大丈夫ですよ、本人もそれを望んでるんですから」
「ならいいが……」