秘密の生徒指導-6
だけど、何も言わない友美に、芦屋先生はますます不審そうな顔をするだけ。
「相馬、お前何か用事があったんじゃないのか? 俺はもうすぐ部活に行かなきゃならんのだが」
ガタンと席を立ち、友美の目の前にやってきた芦屋は、腕組みをしながら彼女を睨みつける。
あれ程芦屋に対して邪な目で見ていた友美だったが、いざ目の前にすると自然と脚が震え出した。
考えてみれば、真面目な友美は芦屋に叱られた事なんてなかったから、いざ対峙した時のこの迫力を知らなかったのである。
(うう、怖い……)
細い一重の鋭い瞳に、友美は心が折れそうになっていた。
そもそも中学生のガキが教師を誘惑するという、荒唐無稽な作戦なんて成功するはずがなかったのだ。
だったら、出会い系とかで知り合った方が簡単に男を見つけられたはず。
衝動的な感情でここに来てしまった自分を、友美は心から後悔していた。
(もういい、早くここから出ていこう)
恐怖のあまり、作戦の中止を決断した友美は、
「すいません、間違いました」
と言って、その場から立ち去ろうとしたが――。
「相馬」
と、氷のように冷たい声が友美の背中に投げかけられたのであった。
「……相馬、お前、スカートの丈、短すぎるんじゃないのか」
ヤバい。芦屋の指摘に、友美は心の中でそう思った。
それもそのはず、友美はスカートを何回も折り込んで、あの河井よりもスカート丈を短くしていたのだから。
さっきまで意気込んでいた、芦屋を誘惑する作戦。
それは、短くしたスカートから下着を見せるという幼稚なもの。
かなり大胆な下着だから、見せてしまえば後はどうにでもなると思っていた友美だったが。
冷静になった今、芦屋にそんな作戦が通じるはずもなく、友美は言い訳すら出来ずに俯くだけだった。
「……相馬、お前のスカートは丈を詰めているのか?」
低い声で静かに言う芦屋だったが、その落ち着いた口調が余計に恐怖心を煽る。
しかし。
「あ……の、スカートは折り曲げてるだけなので、すぐ戻せます」
「だったら今すぐ戻せ。みっともない」
「は、はい……」
素っ気ないもの言いだけど、河井ほど怒鳴られなかったのは、やはり友美の普段の素行がいいからだった。
(初犯だから、大目に見てくれたのかな)
そう思いながら、友美は折り込んでいるスカートを戻し始めた。