諦め-1
そのときだった。
玄関のチャイムが鳴った。
仰向けの美紀子をそのままに、武史が玄関に出ていった。
ドアチェーンを外し、鍵を開ける音が聞こえた。
戻ってくる足音と話し声が2人分聞こえてきた。
武史と友達の幹哉だった。
「うわっ、どうしたんだ、これ!……やばくねぇ?」
「ふふふ、ようやく俺のものにしたんだ」
「それにどうしたんだよ、そのこぶは?血が出てるぞ」
「その説明は、あとでするさ。それより、ちゃんと連れてきたか?」
「ああっ、走ってきたんで外で待たせてある」
「よし。……いいぞ」
武史は部屋の外で、これまでの顛末を話した。
「家に行って遊ぶ道具を取ってくる。こうなったら徹底的に責めてやる」
「大丈夫かよ。ええっ?」
「何がだよ?」
「おまえの精神に決まってだろうが……」
「ああ、一応……人としては、な」
そう呟くように言い残し、幹哉に美紀子の見張りを頼み、隣の自宅に一度帰るために出て行った。
20分ほどで武史は戻ってきたようだ。
幹哉の玄関の鍵を開ける聞こえた。
美紀子は、ドンドンという重い足音とタンタンという軽い足音が近づいてくるのが聞こえてきた。
武史は両手に大きなスポーツバッグを提げていた。
美紀子は武史のほかに部屋の中に入って来るのを見て、青ざめた。
幹哉がラブラドールという犬を連れて入ってきたのだ。
ラブラドールは、ハアハアと言いながら美紀子の回りを歩いて匂いを嗅いでいたが、幹哉の命令で部屋の隅にうずくまった。