第15話 先輩後輩-1
〜 29番の海合宿 ・ 寮での会話 ・ 〜
学園生活を最短で過ごすなら、3年間で卒業できる。 新入生として過ごした1学期が過ぎたということは、学園生活をトータルで9分の1こなした、ということだ。 改めて振り返れば、密度が濃いというか、濃すぎるというか……最初は『絶対ムリ』『有り得ない』『いっそのこと……』なんてことばかり考えてた。 けど……いつの間にか、自分でもよくわかんないうちに順応していた。 なせばなる、なさねばならぬ、何事も。 とにかくアッという間に過ぎた印象です。
夜、史性寮の私室。 机に向かう【B29番】先輩の足元で、膝を揃えて傅(かしず)く私。 先輩が教室から持ち帰った各種教科書を覗き見していると、先輩は色々教えてくれる。 学園のこと、進級のこと、教科のこと、寮のこと……そして時々先輩自身のことも。 頼もしい先輩と二人きりで過ごせる夕食後の一時は、私にとって一番大切な空間だ。
定時の授業が終わり、Bグループ生は希望制の講習が始まる。 普段のカリキュラムから離れられるため、ちょっとくらいは身だしなみを意識してもいいらしい。 髪を伸ばし始めた先輩が耳元を気にしながら本を読んでいると、ふわん、石鹸の清潔な気泡が部屋をみたす。 この香りを嗅ぐだけで心が落ち着く気がする。 たかが石鹸で平静を保てるなんて、私が安いのか、先輩がすっごく暖かいのか……多分両方正解と思う。
「そういえば、もうすぐ【29番】も夏合宿だねえ。 しおりの読み合わせ、もう終わった?」
「あ、はい。 ちょうど今日でした」
床に正座したままぼーっとしていたら、椅子から見下ろす先輩がいた。
「今年の合宿はどんな感じなの?」
「どんな感じ……ですか。 ええっと……多分普通……な感じだと思います」
「普通って、あんたねぇ……そういうのはいいってのに……まあいいや、聞き方が悪かったかな」
くるり。 椅子を回転させて、こっちを向く先輩。
「日程、場所、プログラムとか、なんでもいいから決まったことが知りたいの」
「ええっとぉ……確か3泊4日で、場所はアワジです。 島の南端にある研修施設を貸し切りにして、語学力強化と、体力づくりをするっていう話でした。 詳しい内容は教わってませんけど……」
「ふうん、アワジなんだね。 私達の時はナルトだったから、ちょっとお手軽になったっぽいね。 まあ、基本的には場所なんて関係ないけど、近い方が気楽っちゃあ気楽だと思うよ」
先輩は握った鉛筆をくるくる回している。 何か考え事をするときの、先輩の癖。 いつもながら上手に回すなぁと感心していたら、
「で、班は? 一班につき何人なの?」
不意に手を止めて真剣な眼差しで私を見下ろす。
「えっ、あの、さ、3人でした」
あんまり真面目な視線だったから、つい私も声が上擦ってしまった。
「た、たった3人? あちゃ〜、思ってたより少ないじゃん。 私たちの時は7人で、それでも少ないなぁって感じだったのに」
「えっ、あの、少なかったら問題あるんですかね?」
「いや〜、別にそういうわけじゃないんだけど。 ほら、人数が多かったら、その分教官にしごかれるケースも拡散するし――」
「あ、でも先輩、すごいんですよ。 3人班と4人班を作ったんですけど、教官、私たちで自由に決めさせてくれたんです! 2番さん、22番さんに私で3人グループができちゃいまして、へへへ……すっごくいいメンバーだと思いません?」
「お〜、そうなんだ。 思う思う。 そりゃーよかったねぇ〜」
「あからさまに気のない返事、ありがとうございます♪」
真剣な眼差しからうって変わって、先輩は手を上に挙げて伸びをしていた。
別に先輩に感心してもらわなくても構わない。 今回の班、誰が何と言おうと私的には最高だ。 クラス成績トップの2番さん。 みんなが一目置いている我らが委員長・22番さん。 まあ、ここにみそっかすな29番(私のことです。 体育だけは自信あるんですけど、それ以外はノーコメント……)が加わることで、班の評価が1ランクダウンしてるのは否めない。 ただ、完璧なメンバーを集めるよりは、多様性が大事っていうし。 私が混じることで、よりバランスがとれてるのかも……なんて自分に都合がいい方に考えてみる。
私が狙って22番さんたちに混ぜて貰ったわけじゃない。 くじ引きで偶然決まった班だ。 2号教官から班決めを任せられた委員長が、くじ引きで決めようと言い出した。 陰毛の毛を35本抜いて『毛先が丸い毛』『毛根が付着した毛』『縮れが多い毛』『長い毛』『途中に結び目がある毛』などに分類する。 それぞれを一纏めにして尿道に挿し、その場でマングリ返しをした。 後は私達が順番に1本ずつ陰毛を抜いて、22番さんは最後に残った一本をとった。 それぞれ同系統の陰毛で結ばれた者同士グループを作ったところ、こんな風になったわけだ。