第５話 エスコート-1
〜 ２番の学園祭 ・ 随行（エスコート） 〜
教官のアドバイスには、１人で５Lの『ひまし油』を呑めだとか、厳しすぎる意見もありました。 けれど、もう誰も弱音を吐いたり躊躇ったりするクラスメイトはいなかったです。 みんな、怖いくらい素直に２号教官の言葉を取り入れて、逐一実行に移そうとしてくれました。 雰囲気も、さっきまでもお通夜と比べるまでもなく、前向きで気持ちの籠った明るさがあります。
せっかくムードを変えたんだから、本当なら、このままクラスについて練習に参加したいです。
でも、そういう訳にもいきません。 実行委員には別の仕事が待っています。 今日はエスコートの練習ということで、G棟生徒会室に招集がかかっていて、もう時間がありません。 嫌味や皮肉の１つくらいでるだろうな、そう覚悟しつつみんなに切りだしたところ、けれど誰も怒りはしませんでした。 むしろ快く『いってらっしゃい、頑張ってね』と送り出してくれて……【１１番】さんまで笑顔です。 あれれ、みんなが私を見る目がさっきまでと微妙に違う……？
ラッキー♪ みんな、思ってたよりずっとチョロイです♪
たかが２号教官に、みんなのために泣いてお願いしたくらいで私の株が上がったんでしょうか。 もしもそうなら、咄嗟に泣いて正解でしたね。 本当なら人前で泣くなんてプライドが許さないんです。 女の涙は女に効かないっていいますし。 でもまあ、時と場合によるんですかね。 コストパフォーマンス的にアリだった……そういうことにしておきます。
とまれ、『ひまし油』臭い教室からようやく抜け出し、生徒会室へ急ぎます。 １０分前集合は絶対ムリでも、せめて５分前集合には間に合わなくちゃ、ダメな新入生のレッテルを貼られかねません。 ただでさえ生徒会から下がり気味な評価に致命傷が付くなんて真っ平です。
学園祭の準備で賑やかな人混みを縫って、私は校舎を結ぶ渡り廊下を急ぎました。
生徒会室に入って用意された席に腰を下ろしたのは、またしても私が最後でした。 ただ５分前には間に合っていたからか、誰からもお咎めはありません。 生徒会に入っていないAグループ生が６名。 Bグループの文化祭実行委員３名。 私を含め、Cグループ生３名。 知った顔は史性寮の【A２番】先輩と【B１８番】先輩がいらっしゃるだけ。 【A２番】先輩は上座のお誕生日席に座っていて、どうやら『エスコート』の仕切りは【A２番】先輩がなさるようです。
「定時になりましたから、打ち合わせをはじめまーす。 とりま、Aグループ１人とB、Cグループ１人ずつでペアを作っといたから、隣に座ってる人と一緒に行動してね。 あ、【２】はあたしと一緒の組だから、よろしく〜」
いつもニコニコしている【A２番】先輩は、どことなく【B２番】先輩を彷彿させます。 生徒会の先輩方に比べて優しそうだから、ちょっぴりホッとしました。 チームを組む先輩が優しすぎて困ることはありません。 やや軽すぎる気もしますが、逆よりは全然マシですよね。 【A４番】先輩と一緒とか、考えただけでゾッとします。
「確定した来賓は、公認馴致士さんが２名、第１６、第１７幼年学校の校長先生が１名ずつ、校区自治会の会長さん、学園同窓会理事長さん。 後は教育委員会から２人と、無記名が１人の計１３人。 当日何人か増えたとしても、全部で案内係は６組いるから、１組につき３回案内すればいいだけよ。 らっくちん♪」
明るい【A２番】先輩に、別のAグループ生が口を挟みます。 席のプレートには【A１３番】と印がありました。
「どうせ一般のお客さんは勝手に学園祭を見て回るし、そもそもほとんど来ない。 こっちは来賓に集中しよう。 来賓に粗相があったりしたらタダじゃすまないし、場合によっちゃ個人の進路にまで影響する。 下品過ぎて内定を取り消された先輩もいるし、上品過ぎて牝ランクを落された先輩もいるらしいよ。 そこらへんのバランスとるのって、口で言うのは簡単だけど、現場になると超難しいから……兎に角３人１組で協力して、しっかり案内しよう」
「上手くやっていいアンケートが貰えたら、『内申点』にも影響するかも。 少なくとも『コネ』にはなる。 去年中退した先輩に、Cランクとってから家政婦になった人がいたんだけど、学園祭でエスコートしたお家に入ったんだって。 コネ作りのチャンスは確実にモノにしなくっちゃ。 昔も今も、ピンチはチャンスってね〜」
薄ら笑いを浮かべる【A２番】先輩を、
「ちょっと【A２】、喋り過ぎ。 まずはちゃんと応対できるかどうかだって。 最初から色気ださせてどーすんの」
【A１３番】先輩が窘（たしな）めます。