愛を満たす初夜-1
「最近冷えるねぇー、もうじき冬かぁ。」
「…でも寒い日ならではの楽しみってあるよね。」
「そうだねー、おでんとか中華まんとか、ってほとんどあの二人の好物じゃん。」
確かにそうだけど。私は今この冷えた夜道で手が凍えてる、でも大丈夫、その手は大好きな彼のポッケにお邪魔しているのだから。
彼の空間、それだけでもほっとするのに更に彼の手が私の手を握ってくれる。お陰で身も心も暖まる。
「ごめんね。」
「えっ、何が?」
「ここ一週間、まともに会ってないから。」
美術部の彼は、最近絵のコンクールに勤しんでおり、休みの日にどっかへ行ったりもせず登校も作品創りに追われ一緒に行く事もなく、軽い挨拶くらいで。
「ひとまず絵も完成して、コンクールも一週間後に控えて、これで君とゆっくり過ごせるから、何処か行く?また水族館とか、あーでも今の時期クリスマスだし色々と。」
「ふふ、別に良いって!風馬君の事信じてたし。」
「でも…。」
「なーんか、夫婦の会話みたいね、夫がやりたい仕事で忙しくてちっとも構ってくれないみたいな。」
そう、全然寂しくなんか…。
「……。」
「もし将来君がそのまま画家を目指しったって私なら大丈夫だから!」
無理に明るく振る舞う私を凝視する彼。
「あっ!着いたね!じゃー私はこれで。」
「若葉ちゃん!」
「送らなくても近いから大丈夫よー!」
彼に寂しい…と言う感情を出してしまった負い目を払うように逃げるように帰宅しようとすると。
そんな私を引き止めるように大粒の雨が突然降り出して。
「入って!」
「……。」