一瞬の違和感-6
受話器の向こうでは、奈緒の母のくぐもった声が聞こえているから、おそらく受話器を押さえながら家族に確認をしているのだろう。
やがて音声がクリアになったかと思うと、すぐさま奈緒の母の声が飛び込んできた。
「あ、ゴメンね友美ちゃん。お待たせしちゃって」
「はい」
「それで、奈緒なんだけど……まだ帰って来てないのよ」
「え?」
「ここ最近は、部活を真面目にするからって、帰りが6時過ぎになることが多かったから、今日もそうだと思っていたんだけど」
身体の力が抜けていくのがわかった。
奈緒はまだ家に帰っていなかった。
しかも、友美に嘘をついてまで。
友美が奈緒と一緒に帰っていた時、家に来ないかという誘いを断った彼女に感じたわずかな違和感。
勘違いだと思っていたけど、友美が感じたそれは間違いではなかったのだ。
胸のざわめきは不安と焦りに形を変えて、友美を飲み込んでいこうとする。
同時に、ある人物の顔がふと友美の頭に浮かんだ。
クラスでも目立つグループにいる、バカでお調子者のアイツ、野々村猛。
間違いない。奈緒は野々村と一緒にいるんだ。