一瞬の違和感-4
◇
「よし、英語終わり!」
そうひとりごちながら、友美は腕を伸ばして思いっきり背中を反らした。
関節がポキポキ音を立てるのが、なんだか心地よい。
もともと勉強は好きな方だから、次々と宿題が片付いていくと達成感もひとしおで。
それに、勉強をしている間だけは雑念を払拭できる。
だから、友美は課題がどっさり配られる金曜日が好きだった。
もちろんクラス内では大ブーイングが起こったのは言うまでもないが。
『勉強する暇なんてねえよ〜。頼む、相馬宿題写させて』
ふと、飛坂の泣きの入った顔が友美の脳裏に浮かんだ。
うちの中学は、野球部が割と強くて有名で、甲子園の常連校からの推薦枠がある程。
だから、野球部の練習量は他の運動部の比じゃないらしい。
(また宿題写させてとか言われちゃうのかな)
フウ、とややうんざり気味のため息が漏れる。
野球部の練習のキツさはわかるけど、だからって自分に毎度のこと助けを求めてくるのは間違っている。
『相馬、宿題を写させてとは言わない。せめて勉強教えてくれ』
今日の放課後もそんなことを言っていたけど、冗談じゃない。
思い出した友美は、苛立ちにまかせて奥歯を噛み締めた。
アイツの部活がない時に合わせて一緒にお勉強なんて、パシリそのものじゃないか。
花の野球部に所属して、ちょっとクラスでも人気があるからって。
噛み締めた奥歯がギリ、と軋む音を立てる。
飛坂はあたしを地味子だからと舐めきっている。
都合よくあたしを使おうとしている。
地味子の友美にとって、飛坂のその調子の良さが、時折ウンザリする。