一瞬の違和感-3
最近めっきり奈緒が可愛くなった原因は野々村であるのは明らかなのに、二人が一緒にいる所を見たことがない。
元来、奈緒は自分からノロケ話をするタイプじゃないし、そもそもノロケるほど会ってもいない、と以前彼女が言っていた。
その言葉に嘘はないと、友美は確信していた。
その根拠に、奈緒はいつも友美と下校し、土日も大抵二人で遊んでいるからだ。
じゃあ、奈緒と野々村はいつ会っているんだろうか。
可愛くなった奈緒の横顔を見つめながら、友美はふとそんなことを考えていた。
「ねえ、奈緒。今日あたしん家こない?」
今日は友美の両親の帰りが遅くなる日だ。
このまま家に帰って、一人で宿題をするのも気が重い。
それに家に一人でいたら、きっとまた欲望に負けて一人遊びをしてしまうのがわかっていたから。
オナニーに対して、罪悪感はそれなりに持っていた。
飛坂はじめ周りのみんなは純粋で、勉強や部活に忙しいというのに、友美は一人淫らな行為に耽ってばかり。
自慰行為を全て断つ自信はなかったけど、せめてごく普通の中学生として生きて行きたい、そんな考えは常にあった。
「あ……ごめん。今日はちょっと用事があって」
奈緒は、両手を合わせて申し訳なさそうに頭を下げた。
お誘いして、相手が都合が悪いから断るなんてよくあることだ。
なのに、ふと感じた違和感。
なんとなく動物的カンのようなものが働いた友美は、
「野々村とデートとか?」
と、訊ねていた。
もちろん、それが事実だったらそれはそれで喜ばしいことだし、断られたからって文句を言うつもりもない。
今まで真面目一辺倒で生きてきた奈緒が男の子と付き合ったというのは、友美にとっても新鮮なことだし、いわゆる恋バナだって聞きたい気持ちはもちろんあった。
なのに奈緒は、
「ち、違うよ! 今日は家族で外食するから早く帰っておいでって言われてて……」
と顔を真っ赤にして、首を横に振っていた。
(うーん、奈緒の奥手は筋金入りだ)
そういえば野々村だって、友達とバカ騒ぎしながら帰って行くところを見かけたし、カマをかけたつもりだったが、このウブ過ぎる反応を見ると、デートは本当にないだろう。
一瞬の違和感は、きっとただの勘違いだったのだ。
しかし、彼氏の名前を出すだけでこんなに真っ赤になるなんて、キスとかセックス以前にデートすらままならないのではないか。
奈緒の紅潮した頬を眺めながら、あたしはそう思った。