夜這い-10
11.
夫の由紀夫は体調が順調に回復し、検査の結果も良好と聞いてほっと一安心した。
病気で休んでいた間、仕事のことばかりが気になっていたが、職場に復帰をしてみると何事も無かったようで、俺がいなければと独りで気負っていたことが馬鹿らしく思えた。
今更ながら健康第一を自覚して、残業はほどほどにして退社をすることにした。
課長の由紀夫が退社をすると、部下の課員もいそいそと退社をする。
(何だ、俺が居るから皆帰らずに居たのか?)
妻の変化にも気がついた。
自分の病気が回復して喜んでいるのかと思ったが、なにやら毎日が楽しそうで、肌の艶もきらきらと眩いばかり、何時の間に始めたのか、ずっとスッピンだった顔にも薄っすらと化粧をしている。
(何かあるな?)
何かと考えれば、まず頭に浮かぶのはオトコ。セックスレスになったのに、一言の愚痴も零さない。
消極的な自分に較べて、性欲の強かった妻が・・・おかしい???
妻の留守を見計らって、秋葉原で買ってきた盗聴器をベッドの裏に取り付けた。
<アアア〜あっあっあああっ〜のぼるさんっぅ>
<おくさん〜いいです〜いいです〜しきゅうがおちんちんを〜〜>
<もうすこし〜〜イキそう〜イキそう〜〜〜>
<ぼくもイキそう〜〜いいです〜〜いいです>
<のぼるさん〜イッテッ〜イッテェ〜〜>
<イキます〜イキます>
<あああっ〜のぼるさんっ>
<おくさんっ>
NHKのテレビに混じって、レコーダーから流れる盗聴の声を聞いて、由紀夫は愕然とした。
まさかと思った最悪の事態が現実となった。
頭に上った言葉は“離婚“。
セックスレスになっても、妻のことはまったく考えなかった。夫がセックスレスになれば、セックスが出来ないのは当たり前。どうしてそんなことが分からないのか?
思い返してみると、最近は食事が美味くなった。おかずも以前に較べると由紀夫の好きなものが並ぶ、品数も一品多い。黙っていても夕食に晩酌が一本付く。
不倫のことさえなければ、非の打ち所のない妻。翻って自分は勃起不能者。離婚をしても、再婚の見込みは無い。
由紀夫は踏ん切りの付かないまま、今の生活を続けるしかなかった。
ベッドに入るとレコーダーにスイッチを入れて、妻と昇のヨガリに耳を傾ける夜が続いた。
度重なると、由紀夫のペニスに変化が現れてきた。
性欲が刺激をされて、わずかに勃起の兆しが見えてきた。
(これさえ立ってくれれば・・・)