動き-6
ダイニングテーブルの上にパソコンがあった。
椅子を横に動かして、その画面を正面から覗き込んだ武史が叫んだ。
「あれっ、このパソコンの画面……
うわぁ、こんなの見てるんだ」
「ああっ、見ちゃだめっ!……見ないでぇ!」
大声で美紀子が駆け寄り、パソコンと武史の間に立った。
「奥さん。……見ましたよ。
まだ、こんなに明るいのに……」
美紀子は真っ赤になって,武史の顔を見た。
「いやらしいんですね。……こんなのが好きなんて……」
パソコンと武史の間に立ったのは美紀子にとってまずい位置だった。
テーブルに後ろが押さえられ、目の前に武史の身体が立ちふさがる格好だった。
「なによ。勝手に入ってきて……画面を見たからといって……」
武史は美紀子の横の椅子が引いてあって、その上に置いてある布に気がついた。
武史の目の先が動いたのに、あわてて美紀子が椅子に手を伸ばした。
美紀子の手が届く前に、武史が布を掬い取った。
それは、脱いだばかりの、やはりベージュ色のパンティだった。手の中にある布から武史の手のひらに温もりが伝わってきた。
(たった今、脱いだんだ。……一人でしていた途中だったんだ)
美紀子はうろたえていた。
武史を見ることができなくて、眼が落ち着き無く違うところを見ている。
(そうか、美穂ちゃんが居ないから、たっぷり時間があると思って……)
「わかりました。さきほどの三枚のパンティはお返しします。
その代わりに、ねぇ?……代わりに、これもらって帰ります。
いいですよね?」
「やめて、お願い!……返してちょうだい」
武史は握った布を鼻に当てた。
「やだぁ、……そんなことしないでぇ……」
「奥さん。さっきのベージュのものと……。
やっぱり、ベージュのものと同じ匂いだ。
奥さんの匂いですね」
「返して……ねぇ、お願い」
「物々交換だったら良いでしょ。さっきの三枚と……。
こんな脱ぎたてで、良い状態のパンティですから、ショップに持って行けば、べらぼうな値で売れますからね。
それに奥さんの顔も一緒に付けて売れば、たちまち高値で……」
「どうして顔が写るんですか?」
「さっき、玄関で奥さんがパンティを手にしたところをこっそり撮っちゃったんです。
すみませんねぇ」
そういって、胸のポケットに入れてあるボールペンを指さした。
「これ、盗撮用のペン型デジカメなんです。……ほらっ、また写しました」
「ちょっと、やめなさいよ」
武史は、ただのボールペンをカメラのように扱っただけだった。しかし、動転している美紀子の眼にはカメラに映ったようだ。
(あと、もうちょっとだ……もう少しで落ちる)
美紀子の動揺した顔を見て武史は一段と興奮していた。
「人のものを盗んでなんてことを……」
「じゃぁ、さっきの三枚を返してもらいましょう。あれは、異までは僕のものなんだから……。
それならいいでしょ?」
「でも、私の写真を盗み撮りしたでしょ?」
「そんなの。……データを消せば証拠にもならないですよ。恐喝でもないから科捜研が出てくることまでもないし……」
「武史君の望みは何なの?
お金ならあげるわ」
「そんな、……お金のことはさっきも言ったでしょ?」
「まさか……」
「まさか、……何だと思います?」
「いやっ!もう帰って!
とにかく、帰ってちょうだい」
「だから、欲しいものがいただければ帰りますよ」
「欲しいものって……お金ならあげるわ」
「だから、お金なんかいらないって」
「じゃあ、なによ……」
「わからないかなぁ」