動き-4
そしてついに実行のときが来た。
ピンポン
「どなたぁ?」
何時になく、かすれたような声が聞こえた。
「となりの武史です」
「あら、武史君。
なんでしょう?」
迷惑そうな気持ちが含まれたような声が返ってきた。
「見てほしいものがあるんですが……」
ボツッと音がして、インターホンが切れた。
しばらくして玄関のドアが開いた。
淡いピンクのニットのシャツに紺色のスカートという、家でくつろぐ爽やかな姿の美紀子が目の前に現れた。
(あっ、美紀子)
思わず声が出かかった。
やっぱりかわいかった。
慎ましやかなシャツの胸の膨らみが艶めかしかった。
人妻らしい、なんともいえない膨らみが揺れながら目の前に現れたとき、武史は飛びかかりたくなる衝動に駆られた。
化粧っけがなく、素顔だった。肌は荒れていなく、素顔でも十分かわいらしい。
(昼寝をしていたのか?……顔つきがいつもと少し違うような……)
高まる気持ちを抑えて、美紀子の表情を見ながらゆっくりと話し始めた。
目の前に憧れの美紀子の顔があり、美紀子の息がかかる距離に近づいていたので、股間がムクムクと立ち上がってきはじめた。
ゴクッとつばを飲んだ。
「奥さん、これっ!」
手にした紙袋を差し出した。
「なあに、それ」
「ここでは、ちょっと。
玄関の中に入っても良いですか」
手でドアを押し開け、有無を言わさず、玄関の中に片足を踏み入れ、身体を半分だけ家の中に入れた。
武史の異様な雰囲気に美紀子の顔が曇った。
美紀子は後ずさりしながら、武史を玄関の中に入れた。
しかし、あなたが入れるのはここまでよ、という感じで玄関の床の上に立ちふさがっていた。
「あのぉ、これ!……奥さんのではないですか?」
手にしていた紙袋の中からココアブラウンのパンティを取り出し、美紀子に見せてから、手渡した。
「ええっ?……これは?」
見覚えのあるものを手にして、美紀子はうろたえた表情に変わっていった。
武史は、美紀子がパンティを手に取ったとき、玄関のドアを後ろ手でソッと閉めた。
「どうしたの?……これ」
「捨ててあるのを見つけたんです。
やっぱり、奥さんのですよね。
あっ、そうだ。……あと、これもそうですよね」
ポリ袋の入っているベージュのパンティと濃紺のサニタリーショーツを順にみせた。
美紀子が驚いた顔をして、もうふたつのポリ袋のパンティも手にとって見ているうちに、武史は玄関の鍵をかけた。そしてドアチェーンもかけた。
「どこで……こんなものを……」
「ゴミステーションですよ」
「えっ?……ゴミステーションに落ちていたんですか?」
「落ちていたというのは正確ではありませんね。
先日、奥さんがゴミを出すときの、僕が受け取ったのを覚えていますか?」
美紀子が少し考えていたが、ハッと気がついたようだった。
「思い出したようですね。
ゴミとして出したんですよね?」
「じゃあ、……武史君が、ゴミ袋の中から、……これを?」
「そうです。ゴミとして出されていたということは、奥さんが所有権を放棄したと言うことですよね。
ですから,僕が手に入れることができたのです。
ねえ、奥さん。……これ奥さんのですよねぇ?」
「ち……違うわ」
「そうですか。
じゃぁ、誰かのパンティが奥さんの家のゴミの中に混ざっていたんですね」
「とにかく……違います!
さあ、帰ってください」
「いいんですか。帰っちゃっても」
「……」
怪訝そうな顔で武史を見ていた。