第3話 もめ事-3
……。
生徒会3役(会長、副会長、書記)が揃っている前で見せた『清流噴水』の演技は、私達がいままで練習した中でも最高の出来でした。 高さ、勢い、持続時間……いつもより沢山お腹に溜めて、いつもより一気に気張りました。 少しオナラの下品な音をさせてしまったのは、頑張ったからこそです。 そうやって1.5メートル以上の噴水を見せることが出来ました。
で、頂いた評価はというと……結論から言うと『なし』でした。 『評価してもらうレベルに達していない』ということです。 平たくいえば『論外』扱い。 演技を終えた私たちに会長が漏らした一言、『かつてないレベルでダメダメですねぇ』という溜息交じりの言葉が耳の奥にこびりついています。 副会長の【A4番】先輩は、明らかに怒っていらっしゃいました。 なにしろ直属の寮の後輩である私たちが不様な醜態を晒してるんです。 頭に来ないはずがありません。 『お話になりませんわ』と呟いた以外、私達と目を合わせてもくれませんでした。
生徒会書記の先輩からは静かに諭されました。
『学園祭のメイン展示を任されることの意味、分かってる? 出来ると思ったから振られてるんだよ。 それがこのザマって、どれだけ期待を裏切ってくれるわけ? 本番でこの体たらくだったら、間違いなく来賓アンケートでこき下ろされる。 うちの学園自体がね。 まあ、それは貴方たち新入生には痛くもかゆくもないのかも知れないけど、すごく辛いことよ。 今まで学園で耐えてきた上級生としては、ね』
書記の先輩は無表情で、だからこそ、一言一言に背筋が寒くなりました。
『どちらにしても、学園に泥を塗るような生徒は、生徒会として大切にしようとは思わない。 次の生徒会行事が『C−2組ダーツ』だったり、『C−2組倒し』『C−2組投げ』になることくらいは、最低でも覚悟しなさい。 以上』
ダーツ、倒す、投げる……何を言っているかは分かりませんが、何を言いたいかは伝わってきました。 生徒会レベル、つまり学園レベルで私たちがイジメられる、ということです。 実際にそんなことが有り得るかは分かりませんけど、クラスのみんなの気持ちをどん底に落すには十分な迫力が、先輩方から漂っていました。 さっきまで練習していた『ひまし油』臭い教室に戻っても、誰も自分から動こうとしないし、何も喋ってくれません。 じゃあ寮に帰ろうかというとそういうわけでもなく、教室を掃除しようとする子もいませんでした。
……どうすればいいんでしょうか。 学園祭……私、軽く考えてました。 生徒会の先輩方が仕切ってくれるから、私は子供のお使いというか、言われたことをこなしていけばいいと、それで何とかなると思ってたのに……。
いつもなら明るくみんなを引っ張ってくれる委員長も、俯いたまま窓の外を眺めています。
無闇に元気が【29番】さんも、ウソみたいに静かです。
何人かは、ジッと私を見つめています。 『どうしよう』『どうにかして』『どうにかしなさい』『どうにかしろ』……無言の瞳が雄弁に語りかけてきて、私も周りを見回しました。 でも、誰も助け船を出してくれません。 行委員の私は、このあと『学園祭当日の来賓エスコート』の打ち合わせも迫っています。 いつまでもクラスにいるわけにはいかないし、かといってこの雰囲気のまま放りだすわけにもいきません。
どうしよう、どうしよう、どうしよう、どうしよう……。
ちく、たく、ちく、たく。 普段耳に入ってこない掛け時計の秒針刻みがやたら大きく耳朶に響く中、
私は益体もなく同じことをグルグル考え続けるしか出来ませんでした。