眠る恋の話 ２-2
紅茶を飲み干した夏目は、また僕を見上げて、言った。
「真理子さんと恋愛して結婚していた時間、彼女が出て行ってからの時間、私とすごすようになった時間って比べると、私との時間って一瞬ですね。」
人は、それぞれの長い時間を引きずりながら生きている。でも、明日は新しいのだ。
「泣くなよ。」
そういったのと同時に、ほろっと涙が出た。僕の。
「泣いてるの私じゃないですよ。」
涙が出る理由は、過去のふがいなさを思い出したことと、夏目の感情がにじむのがわかるからだ。夏目は、何も言わない癖に感情を漂わせている。
「でも、どうして今まで離婚届提出してないんですか。」
「男って時間がかかる生き物なの。時間がたってこないと、いろんなことがよくわからないんだよ。動かすべきなのか動かさずに置くべきなのか。彼女のためなのか、自分のためなのか。」
やさしい手が僕の肩を撫でる。夏目が好きだ。
「にゃんこ、もう一回セックスしよう。なんか、君に見捨てられそうで耐えられない。」
「セックスで繋ぎ止める自信があるんですか？」
答えずに、彼女の首筋に食らいついた。彼女のくぐもった呻きに気をよくする。
甘ったるいのは、汗なのか、体液なのか、彼女の性器をなめるとなにか甘いにおいがする。味覚こそしょっぱいのに、なにか甘い香りを放つそこは夏目の体の中心で、赤く水気を帯びてぬらぬらと光る。もっと見たくて太ももを押し広げた。中がどんどん熱くなるのだ。今だって指一本差し込んだまま、クリトリスをなめて、壁をこすると肉がうねって温度が上がる。
「にゃんこの中に入れるといつも溶けそうに熱い。」
「黙って。」
夏目にぴしゃりといわれるのが好きだ。特にセックスの最中は。
彼女の白い肌と赤い性器と黒い毛の色のコントラストは美しい。最近の彼女は、ある一定の動きに必ずしぶきを上げる。それこそ壊れたおもちゃのようにぴゅうぴゅうと吹き、繰り返すごとにあえぐ声が高くなる。舌と指をねじ込むように入れて、いつものそこを探る。
「お願い、あんまりそこしないで、先生。」
「なんで。きもちよくないの？」
「みっともないことになりたくないんです。」
みっともないこととは、どんなことのことだろう。心当たりがないので、そのまま僕は好きなようにする。内側が別の生き物ののように動いている。夏目の太ももがこわばり
ぴしゃっと僕の顔に水がかかる。ああ、もうなんだっていい。そう思ってむしゃぶりついたそこはまたいっそう甘い匂いを放っている。
是非、みっともないこととやらを最初から最後まで見せて、僕を安心させてくれ。
「脱水症状になりそう。」
とんでもない水遊びを繰り返すうちに、彼女は僕の手を止めた。
シーツの上の彼女の赤い顔と、潤んだ目と、かすれた声が、下半身をより凶暴にする。覆いかぶさって足の間に体を割り込ませ、熱を目印に滑り込むと、僕の体が沈んでいく。組み敷いた夏目の体が美しく反ったから目の前に来た乳首を食んだ。見上げた先の口に髪の束が一筋入っているのを落とすと、彼女は眉間にしわを寄せたまま僕の指を噛んだ。指先の刺激が埋もれた先端をより敏感にするのはなぜだろう。
夏目の体の一番奥に入れてほしい。彼女を泣かせても、一番奥に割り入りたい。そういう衝動に駆られて、肩を抱きこんで深く挿した。臓器を押している感覚をもちながらさらに押す。
夏目の喉がひゅっと音をたてて、息を吸った。
「んぁああっ！」
声と共に熱を持った肉が僕を搾り取るように動いた。甘美な扇動に耐え切れず引き抜こうとしたけれど絡みとられ、ふっと力を奪われた瞬間、きゅっと睾丸があがる感触と共に猛烈な衝動がこみ上げてきた。目がちかっとしたら、次の瞬間にはあっけなく欲を破裂させていた。
早い。これじゃあ、まるで・・・・・・。
「みこすり半。」
耳をうたがった。まさか夏目の口からそんな言葉がでるとは。まさか覆いかぶさったまま、そんな侮辱をうけるとは。
彼女はうふふと笑っている。
「先生、また涙出そう。」
精液を搾られ、額と背中には汗をかき、情けなさで目まで潤んでくる。脱水症状はお互い様だ。
「もう、だめだ。生きていけない。」
抱きついて首元に埋もれる。顔を見ないでくれ。自分の思い上がりが、いやになる。夏目との関係は僕に主導権はない。