夜道-2
タクミは自転車で、
来た道をまた戻る。
駅から家の市営住宅までの道は、
コンビニもなく外灯も少ない。
住宅街を自転車で走ったいたが、
ふと自転車を停めて背中のバッグから
スマホを取り出す。
ちづるにラインでこう送った。
【まだ飲んでる?
俺、DVD返しに外出たー。
迎え、行こうか?】
しばらく画面を眺めていたが
既読がつかない。
電話をかけようか一瞬考えたが、
まだ店で飲んでいるちづるを
思い浮かべ、やめた。
タクミはスマホをバッグにしまい、
再び自転車で走り出した。
この時間、
住宅街を歩いてる人間は
帰宅中のサラリーマンばかりだ。
タクミはぼんやりと
自転車をこぐ。
すると視界に2人の人間が入る。
自転車でその2人にどんどん
近づき、追いこす。
追いこした瞬間
その1人がちづるだと気がつく。
2人の前を2メートルほど進んだが
反射的にブレーキをかけた。
自転車に股がったまま、
タクミは後方の2人を見つめる。
「、 、 、 、、。」
紺色のロングコートに
ボルドー色のハイヒール。
髪をポニーテールにしている
ちづるはタクミに気がつくと、
小さな声で「ぁ。」と言った。
その瞬間ちづるは『まずい』
という顔をしたのを
タクミは見逃さなかった。
ちづるの隣には
1度会ったことのある
がたいの良い茶髪の男がいる。
黒いジャンパーとGパン姿の
吉川だった。
タクミは黙って2人を見つめる。
「、 、、、。」
ちづるは、思わず声を出す。
「、っ ぁの、 」
タクミは、
無表情で吉川を見て言う。
「、、。 こんばんは。」
「 ? っ ぁーー
こんばんは、、、 。」
吉川はタクミを見て、
タクミの事を思い出そうとしていた。
タクミは、
そんな吉川を横目に
今度はちづるに言う。
「送ってもらったの?」
「、 っ、、 ぅん 。」
「、、、。 そう。」
「、 、 、、。」
ちづるの目が泳いでいる。
辺りは暗いが、
タクミには
ちづるが今どんな気持ちか
どんな表情をしているかが、
手に取るように分かる。
そんな2人の雰囲気に
吉川は気がつくはずもなく
タクミに向かって言う。
「 あ! イトコの?
前に会った 、 」
「はい。」
「あーー! はい、はい。
思い出した。
ちづるが具合悪かった時に、、
確か駅で会ったんだよな ?」
「、 、、。 はい。」
「、、。 1人? 」
「 ? 、、はい。」
「こんな時間に ?」
「 、 、 、 、。」
「 ? 」
吉川は悪気なく
夜中に外に居たタクミを
少し心配してそう言った。
3人の間に妙な沈黙が流れている。
ちづるは居たたまれなくなり、
思わず言う。
「吉川さんっ
私、もうここで
大丈夫ですから、! 」
「? え?」
「もう、、 ここで 。
あの、送ってもらうんで 、、。
彼に 」
「あぁ。 近いの? 家。」
「はい。 同じ棟ですから、、。」
「 ?
ふふっ
なんか、
急に敬語でウケるんだけど。」
「 え? 、 、、。 」
「酔いが覚めた?
、、まぁ、いいや。
じゃー うん。
俺はここで。
気を付けてな。」
「、 、、、はい。」
ちづるは、
自転車に股がっているタクミに
近づく。
一刻も早くこの場を去りたい
気持ちで、そそくさと吉川に
会釈をして歩き出そうとする。
吉川は
ちづるが歩き出そうとしている
後ろ姿を見て
最後に声をかける。
「あ、 ねぇ、ちづる!」
「 っ !? ? 」
ちづるは恐る恐る
吉川の方を振り向くと、
吉川は屈託のない笑顔でこう言った。
「また、なんでも相談しろよ?」
「 っ! 、 、 、、。」
ちづるは動揺しながら、
吉川には届かないぐらい小さな声で
「ありがとうございます」と呟いた。
タクミは、
少し目を伏せ、一点を見つめ
自分の感情を押し殺していた。