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大沢商事の地下室
【SM 官能小説】

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貞操観念の果てに-1

「堪能したよ」
 ショーを終えた里子がボックスに戻ると大沢はそう言った。
 しかし言葉とは裏腹に満足していないのは表情から分る、そもそも里子自身が満足していないのだから当然だ。
「本当に? あたしも満足していないのに、ですか?」
 里子は正直な気持ちを吐露した。

 里子はSMショーパブのママ、店のホステスをM女に『見立てた』ショーを終えたばかりだ、店の名は『スレイヴ』、店名の上には『SM Show Club』とある、SM愛好紳士の社交場でありたいと言う願いをこめてクラブを名乗っているのだ。
 ボックスに座っているのは上得意の大沢、大沢は一代で社員50名程の不動産会社・大沢商事を築き上げ、今も現役の社長、そして70歳を過ぎた今でもSMクラブに通ってくるほどの色好み、里子の店では開店当時からの常連だ。
 と言うより、若き日の里子があてもなく上京してSMショーパブのホステスになった頃から目を掛けてくれ、この店を始める時も何くれとなく面倒を見てくれた恩人。
 田舎からぽっと出で何も知らなかった里子を女にして、更に大きく開花させたのも大沢、M女としてスタートした里子の素質を見抜いてS女王に転向させたのも大沢なのだ。
 それと今夜は一見温厚に見えるが鋭い眼光の連れが居て、水商売の長い里子には暴力団関係者と一目で分る。
 
「まあ、警察もうるさいからな、仕方なかろう」
「それはそうなんですけど、自分で言うのもなんですが、こんなぬるいショーじゃSMとも言えないんじゃないかしら……」
「う〜ん、里子もそう思うのか」
「大沢さんもそうお思いでしょう?」
「まあ、正直なところはそうだな……ここは他の店に比べればハードな方だが……」
 確かにこの店ではホステスを縛って宙吊りにするし、ムチで打ったりもする、里子自身に縄師の心得があるので縛りや吊りには工夫を凝らしてはいるが、縄目が残るような縛りや体がきつい吊りはホステスに嫌われ、辞めてしまう恐れがあるので里子も存分に腕を揮うという訳には行かないのだ。
 ムチにしても派手な音をたてる割には痛みが少ないように工夫して打っている。
 今日のホステスは爪先立ちにならない程度の両手吊りや、数発に留めればバラムチも受け入れてくれるからまだ良いが、ちょっと綺麗でホステスとして売れている娘になると『あれも嫌、これも嫌』ばかりでショーが間延びしてしまうことすらある。
 里子自身は本格的なSなので真性M女のホステスもいるし、責めを求めてショーに出演してくれるM女も何人かいるのだが、風営法の縛りの中ではどうしても本格的な責めは出来ないのだ。
「あ〜あ……本気で責めてみたいわ……大沢さんはそういうショーを見たいんじゃありません?」
「ああ、里子が思う存分に責めたら、それは見ものだろうな」
 二人の会話をじっと聞いていた男が不意に口を開く。
「まあ、もしそう言ったショーが開けるなら、その生贄は用意できますがね」
「本当かね? 門村さん……ああ、まだ紹介していなかったな、こちらは門村さんと言ってな……大きな声では言えんが恵和会の幹部だよ……こっちは里子ママだ、天性のSだよ」
「よろしく、ママ」
「こちらこそ、どうぞご贔屓に……ところで今のお話ですけど……」
「うん? 生贄云々のことかい?」
「ええ」
「まあ、ウチみたいな稼業をしているとね、弱みを握っている女は何人か居る……そういうことだよ」


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