思い出の君、今いずこ-8
あとに残されたのは、雅樹と美由の二人だけ。
「ごめん。わたし、ちょっとシャワー浴びるから、その辺に座って待ってて」
小さな声でそれだけ言い残すと、美由は雅樹の返事を待たずに浴室へ入った。
ほどなく古めの給湯器から不規則な燃焼音が響いて、しぶきがガラスの戸をぱしゃぱしゃと
叩き始める。
「……」
その音を、雅樹は何の考えを巡らせることもないまま、無感情に右から左へ聞き流した。
「ふう、すっきりした……って、あれ? 雅樹、まだそこに立ってたの?」
シャワーを浴び終え、薄手のTシャツにショートパンツ姿で部屋に戻ってきた美由が驚いた
ように声をあげる。
「お、お前……いつも、こんな……」
雅樹がやっとのことで、自分の気持ちを言葉にして吐き出した。
「……うん」
にこやかだった美由の表情が、がらりと変わって真剣になる。
「やらせてあげてるよ。みんながやりたい時に、好きなだけ」
「!」
雅樹の心臓が、弾け飛びそうになった。
「四人一緒の時もあるし、一対一の時もあるけど、基本は自由。あっちは四人で色々取り決め
してるみたいだけどね。順番とか回数とか」
「い、いいのか? そんな……」
クッションに座り、首にかけたバスタオルで髪を拭きながら淡々と語る美由に、雅樹が絞り
出すように尋ねた。
「うん。一生懸命わたしのことをちやほやしてくれてるんだもん、ちゃんとお礼しといた方が
いいでしょ?」
「お、お礼って……」
言葉に詰まる雅樹に、美由がふふ、と笑いかける。