思い出の君、今いずこ-4
「約束?……うーん、何だろ。何しろ昔のことだからねー、わたしあんまり覚えてないやー。
ごめんねー。あっはは」
「そ、そっか、そうだよな。ははは」
心の中でかなりの落胆を覚えながらも、雅樹はそれを悟られないように笑ってごまかす。
「え? なになに? 姫って彼と知り合いなの?」
美由の横から話に割り込んできたのは、どことなく口調の上ずった銀縁メガネの男。
(……ひ、姫!?)
まさかの呼称に目を見開く雅樹をよそに、美由が微笑みながら口を開いた。
「うん。小学校で同じクラスだったんだ。わたしがすぐ引っ越しちゃって、一緒だった時間は
全然短いんだけど」
「へー、そうなんだ。あ、俺、武田。よろしく。あとはそっちから」
「どうも、藤井っす」「は、初めまして、中村です」「……遠藤」
美由の両横に控えるむさ苦しい男達が、それぞれの口調で挨拶を済ませる。
「よーし、じゃあこっちも名乗ろうか」
部長の発言から、今度はH大側の自己紹介という流れになった。
それが終わる頃には固かった場の空気も大分ほぐれ、話が徐々に盛り上がり始める。
「それにしてもこの話、すんなり受けてくれるとは思わなかったよ。よそは返事が遅くてね」
「そうなんですか? うちは姫が行きたいって言ったらその時点で満場一致の賛成になるんで
すぐ決まりましたけど」
部長の言葉に、武田が応じた。
「美由……姫って、呼ばれてるのか?」
雅樹はそっと尋ねてみる。
「うん。武田くんだけじゃなくてみんなそう呼んでくれてる。外で他の人に聞かれるのは少し
恥ずかしいんだけどねー。あっはは」
「何言ってんの。姫は姫。俺達四人は全員、姫に絶対の忠誠を誓ってるんだから。な?」
頬を赤らめる美由の横から言い放つ武田に、他三人が無言で頷いてみせた。
「ありがとー。わたしもみんなのこと大好きだよー」
「……」
のろけるような美由の言葉に言い知れぬもやつきを感じて、雅樹はぐっと口をつぐんだ。
――その後も、和やかに話は続いたが、
「それにしてもF大の映像研究会って凄いよね。名門なんでしょ?」
「いえいえ。昔はともかく、今はこの五人で細々とやってますって感じなんで。別に映画とか
撮ってるわけでもないし、名門だとかいっても実際はただの小規模オタサーなんですよねー、
わたし達。あっはは」
「……」
昔とは違う妙にわざとらしい調子でけたけたと笑う美由に、雅樹は会話の合間をぬって時々
ちらちらと複雑な目線を送るのであった。