第17話 29番日誌P-1
〜 29番の日常 〜
―― 6月○日 どんより曇りさん ――
毎週水曜日が来ると緊張する。 午後の5限、6限の特別活動は直前までどんな内容か教えてもらえないから、通常授業と違って予想がきかない。 講演会があるかと思えば他学年との絡みもあるし、校外へ遠征することもある。 緊張感があって楽しい、っていう友達もいるけれど……私はどちらかっていうと、いきなりは苦手。
だから、いきなり『自己紹介』の特別活動っていわれて、正直すごく身構えました。 まあ、ふたをあけたら、単に『自分のことを書いた壁新聞』をつくって、みんなの書いた壁新聞を鑑賞するだけだったから、どうってことなかったんですけどね……心臓に悪いです。
タイトルは『おまんこ新聞』にして、自分のオマンコを詳しく解説するのかな――それとも自分が如何に牝らしいかを強調した恥ずかしい文章の羅列になるのかな――なんて思っていたら、教官の指示が『幼年学校時代の自分を紹介する内容』『自分の過去をクラスに知ってもらうこと』で、いたって真面目(?)だから驚いた。 幼年学校……う〜ん、全裸で毎日おまんこをくじく毎日と比べると、思い出したいような忘れたいような、微妙な気分。 それでも、ちゃんと本音で壁新聞を作った。 寮で散々『源氏名(記号で呼ばれるようになる前の姓名)』を口にしちゃいけないって教わってるので、ニックネームとか、好きな作家とか、よく聞いていた音楽とか、そういうのは正直に書いた。 別に『私のオマンコは縦長で、肉厚な部分は最高で6ミリ、襞の薄い部分は2ミリくらいで――』みたいな文章を書いても良かったんだけど。 確かに、その方が無難だとは思うけど。 それでも、せっかく過去の自分を出せるチャンスなんだしと思ったから……後悔はしてない。
【2番】さんなんかは『よく平気でそういうこと書けるねえ』って、私の新聞を見て驚いていた。 たしかに【2番】さんが書いた新聞は、彼女の身体のパーツ、性癖、得意な自慰体勢なんかを事細かに書いていて、見ているだけで頬があつくなる。 クラスの8割はこんな感じだった。 一方【22番】さんみたいに、私と同じようなことを書いている人も、5人くらいいた。
もし私が本音で喋れる友達になれるとしたら、壁新聞で自分の内面を書いていた人、いいかえたら身体を張ってた人な気がする。 すると、このクラスの中に5人はいるぞ、ってことになるのかな……あっちでも私のことを、友達になれそうって思ってくれたら嬉しいな〜。
―― 6月○日 晴れ時々狐の嫁入り ――
特別活動で『セルフ華道』を練習した。 お祭りや来賓があった時に、自分で自分に花を生けて校舎を飾ることがあるそうで、そういう場合に備えた練習だ。 うちのクラスには誰も華道部がいないから、お手本になりそうな人がいない。 まあ、こういう時は、大抵【22番】さんを真似るんだけど、珍しく【22番】さんがキョロキョロしてたので、頼れそうにない。 しょうがないからみんなおっかなびっくりで花を触っているうちに、8号教官が教えに来てくれた。
水差しに水を満杯に汲み、花鋏(はなばさみ)と剣山を用意すれば準備完了。 花形は『立てる形』といって、主枝の脇に側枝を寝かせながら剣山に整える。 花器は用意されてない。 それはそのはずで、私達のオマンコが花器だ。 膣に水を満たしてから、野バラや水仙といった花を膣に挿入する。 そうしておいてから鋏(はさみ)を膣に入れ、チョキン、茎を斜めに切る。 いわゆる『水切り』で、こうしておくと水吸いがよくなり花が長く持つそうだ。 水に浸けながら鋏で切らなくちゃいけないため、おまんこの外で切るという選択肢はない。 おまんこの中で鋏を動かす時は、間違って大切な部分を切りはしないかとドキドキした。
切った端材はおまんこの中に放置。 締めつけながら10本ほど華を咥え、主枝を倒さないように、また水を零さないように、腰を支えて足を拡げる。 8号教官は時間内に『生け花』になった私達を眺めると、少し花の角度を調節しただけで、全員に合格をくれた。 ただ片付けとなると話は別で、水を零さないように花ごとトイレに駆け込まなくちゃいけないんだけど、これが難しすぎて誰も成功しない。 ただでさえトゲトゲの薔薇をおまんこに挿しているんだから、隙間から水が零れるに決まっている。 片付けは全員不合格になった。 みんなで箝口具にタワシを嵌めて、一頻り教室を掃除したところで、特別活動は放課した。
それにしても、『地獄に仏』とまではいかないけれど、華道が分かる人が来てくれなかったら、ホント、どうしようもなかったです。 っていうか、2号教官、担任なんだからちゃんとクラスについてくださいよ……。 もしかして、私たちならほっといてもどうにかするって思ってませんか? いっときますけど、【2番】さんや【22番】さんみたいなごくごく一部を除いて、私達って全然優秀じゃないんです。 【22番】さんの苦手分野に当たった時にほっとかれたら、一瞬で撃沈しちゃいますよ、クラスみんなで。 間違いないんですからね。 ちゃんと指導してくれなきゃ困ります。 よろしくお願いします、本当に。