第13話 29番日誌L-4
―― 6月○日 ひたすら晴れ ――
学園のCグループ生は、基本的に『基礎体力』『基礎学力』『基礎礼節』の『3基礎』を学ぶステージとされている。 この3つで及第判定を受け取れば、晴れて次年度にBグループへ進級できる。 『基礎体力』は基準が明快だ。 運動神経や筋力、柔軟性に持久力が高いほど良い。 『基礎学力』も誤解が少ない。 各科目のテストの点という明確な数値が指標になる。
一方の『基礎礼節』だ。 牝として社会にでる適切な心構えと振舞いが出来ているかが問われるらしい。 てっきり担任の――私だったら2号教官――が判断するんだろうなって思っていたら、そうじゃないいんですね。 それ専門の仕事、即ち『基礎礼節を判定する職業=公認馴致士(こうにんじゅんちし)』がある。 今日講演してくれたのは、その『公認馴致士』の方だった。 年はかなり若く見える。 名前は【句菜漫子(くさいまんこ)】さん。 字面こそ違えど同じ呼び方の名前が3人連続すると、もう偶然とは思えない。 社会人の女性はみんな同じ名前なんじゃないかって、30番さんが呟いていたけど、強(あなが)ち冗談でもない気がした。
【句菜】さんによると、『公認馴致士』とは、『学園の生徒は勿論、社会人のことも見回り、礼節を踏まえて牝の本分を全うしているかどうかを調べる仕事』なんだとか。 うーん、女性が女性を判定するっていうのは、私的には違和感があるかなぁ。 あと、私たちとの関係でいえば、抜き打ちで『公認馴致士』が学園を訪れ、生徒それぞれについて進学の可否を決めるんだとか。 あの、これってホントですか? 私たちが進級できるかって、公認馴致士の方がダメっていったら流れちゃうんでしょうか?
講演はスライドショー形式だ。 『牝に相応しくない行動』と銘打って、次々にごく普通の写真が映される。 パッと見ただけじゃ何で相応しくないかサッパリ分からなかったけど、【句菜】さんによればダメな理由がちゃんとある。 例えば『手で口を覆いながら笑うシーン』は『本来覆うべきおまんこを放置して口を覆うなんて分別が足らない』から✕。 『鼻を啜るシーン』だと『おまんこを含めて体液を垂れ流す姿を見せる無様さと、鼻を啜る耳障りな音を天秤にかける点』が✕。 『髪をかきあげる仕草』に至っては『発情した自分の顔が隠れる可能性を排除していない時点で日常の分別がなっていない』と判断できるんだとか。
……私たちには反論の機会なんてないから、黙って聞くしかありません。 でも……本音ではクラスのみんな、私を含め、イラッとしてたと思います。 雰囲気で解りますよね、友達がどう思ってるかなんて。 【句菜】さんのいうことは、こじつけっていうか、無理筋っていうか……2号教官はどう思われますか? もし【句菜】さんが私達の進級を判定する立場になったとしたら、私達全員進級できる気がしないんですが、本音であんな基準が適合されるんですか??
模範的なBグループ生の一日を追った動画も、スライドショーに組み込まれていた。 学院を次席で卒業した『OL一年目』の女性は、ちゃんと服を着て、女性ばっかりの職場で働いていた。 朝起きて、出社して、食事をして……すべてが幼年学校の時みたいないい意味での『普通』だ。 学園に慣れつつあったから、逆に異常な光景に見えたけど。 時々道端の電柱に抱き着いて股間を擦りつけたり、職場の机の角に唐突にお股を喰いこませたり、突発的なオナニーがある。 どれも10秒程度でビクンビクンと痙攣してた。 他にもパソコンを触っていたらいきなり椅子の上で『まんぐり返し』になっていたり、他人とお喋りしながら『Y字バランス』を作って下着を穿いてないお股を拡げたり、おまんこを折に触れて周りの人に晒している。 【句菜】さんは『牝性を自覚している点がよく伝わってくる、正しいタイミングですね』といってたが、私の印象は……本音でかくと『頭がおかしい人』に見えた。 私たちも、学園じゃ『頭がおかしい人』を目指してることになるんだけど――複雑な気分です。