第13話 29番日誌L-3
―― 6月○日 やっぱり晴れ ――
先週の水曜日に引き続き、連続して講演会があった。 今日来てくださったのは『助産師』の【草伊満子(くさいまんこ)』さん。 名前の呼び方が先週の【草井】さんと同じで紛らわしいけど、今日の【草伊】さんはとっても年配で、多分40代だと思う。
『助産師』っていうのは、女性が出産する手伝いをするお仕事だ。 ただし『助産師』がつくのは『殿方』を出生する場合だけ。 生まれる子供が『牝』であれば、全自動の出産所で、機械介助での出産になる。 で、出産時の留意点は、生まれる殿方が無事であること。 殿方が無事に健常であれば、そのお産は大成功扱いになる。 なので、母体の負担はさて置き、新生児の出産直後の呼吸開始や黄疸、胎盤による圧迫やへその緒による過剰接続を防ぐのが『助産師』の具体的な仕事になるそうだ。
母親の身体はどうでもいいっていうのは、半分予想してはいたけど……改めて聞くとゲンナリする。 殿方と同等に扱って欲しいわけじゃないけれど、少しくらいは大事にしてくれたっていいのにな……なんて思っていたら【草伊】さんが、
『でもね。 本当は殿方も母親も無事に回復するのが、一番いいお産に決まってますね』
と、付け足してくれて。 その瞬間、体育館が水を打ったみたいにシーンとなった。 その後も『助産師の資格の取り方』や『学園の勉強が助産師になる手助けになった』、『助産師になってから感動したこと』、など色々話してくれたけど、本音をいうと、あの一言でお腹がいっぱいだ。 私たちが子供を産むとして、それが殿方であれば助産師さんがついてくれて、私達の体のこともちゃあんと気遣ってくれる――それだけで十分に、未来が明るいって信じられる。
スライドで写真を見せることは、殿方のプライバシーにかかわることだから出来ないらしい。 でも話すだけじゃつまらないってことで【草伊】さんは特別な『出産体験』を用意してくれた。 代表で1組の保健委員が前に出て、私たちに向かってM字に足を拡げる。 【草伊】さんは『ゴムバルーン』と『鞴(ふいご)』を取りだすと、バルーンに空気を入れて膨らませた。 膨らんだバルーンは両手に抱えるくらいの赤ちゃんの形だ。
【草伊】さんが空気を抜いたバルーンを握り、1組の体育委員の膣に腕をいれた。 傍目で分かるくらい奥まで容赦ないフィストファックだ。 【草伊】さんは『子宮の入口が柔らかかったから、子宮まで入れたわよ』とニッコリ笑う。 バルーンから伸びたチューブが膣から覗いていて、そこに鞴(ふいご)を繋げると、2度、3度と空気を送った。 たちまちお腹がぽっこりして、もうぽっこりだなんて可愛い表現じゃ追いつかない、ボコッ、ボコッと隆起する。 あまりに勢いが強すぎて、挿れられた子は口をパクパクさせていた。 本音をいうと私も怖くて見てられなかったけど、目を閉じたら絶対指導されるから、必死に瞼を開いてお腹が膨らむ様子を見た。 やがて『本当はこの3倍くらい大きくなるんだけど、今日はあくまで体験だから、このくらいでお終いにしましょう』といって、鞴(ふいご)を止める。 そうしておいて、
『いくわよぉ。 ひっひっふー、ひっひっふー、はい、あたしに続いて息をすってー!』
『ひっ……ふっ、ふう〜〜ふはぁ〜〜、すぅ〜〜〜……』
『吐いて〜〜ぜぇーんぶ吐くのよぉ〜、はい、ひっひっふー、ひっひっふー』
『っく、ひっく、うぅ……ふ、ふぅ〜〜、あふ〜〜』
『もいっかい吸ってー! どんどん吸って、もっともっと吸ってぇー!』
『すう〜〜っ、うく、すぅ〜〜〜』
みたいな感じで調子を取りながら彼女のお腹をさすり、瞼を閉じさせ、クイックイッとバルーンについた紐をひっぱった。 引っ張られるたびにビクンビクンと痙攣していた。 そしてとうとう、
『それじゃいきますからねぇ! 思いっきり吐いて吐いて吐いて吐いてぇ〜……』
『ひっひっ……ふうぅ〜〜、ひっ……ひぐっ、ひっ……』
『吐いて吐いて吐いて〜〜はぁく!』
その瞬間、彼女の股間が異様に広がったのには驚いた。 オマンコってあんなに広がるんだって。 まるでタイヤみたい襞が弾んで、ジュリュッっていう湿った音がして、引っ張られたゴムバルーンがそのまんま出てきた。 さっき膨らませた時よりは小さかったとはいえ、それなりの大きさだ。 体育委員さんがゴム製の人形を産んで肩で息をしているのと対照的に、【草伊】さんは落ち着いてゴム人形を抱きかかえながら、閉じきらずに撚(よ)れているおまんこの陰唇をさすっている。 やがて体育委員さんが上気した頬で『ありがとうございました』というと、【草伊】さんは『立派な子宮だから、元気な赤ちゃんが埋めるのよ。 よくがんばったね』といって、パチパチパチと拍手
をした。 体育委員さんが涙ぐんでいたのは、痛みだけじゃなかったと思う。 私も逆立ちさえしていなければ拍手していた。
ただ子供を産むだけの『有機子宮』であればBランクでも問題ないけど、きちんとした出産となればそうはいかない。 実際に赤ちゃんを産むためには、学園をトップクラスで卒業して『大学』に入り、できれば『大学院』まで進んで最先端の知性を身につけなくちゃいけない。 その上で社会人として規定の年数を経て、殿方に愛玩伴侶(ペット)に選んでもらい、気まぐれでいただいたお情けでもって受精、着床し――とにかく気が遠くなるような壁がたくさんある。 だから、私達が赤ちゃんを産む可能性自体、極々稀なものってことも知ってる。 そのせいか、ただの『ごっこ遊び』で痛いだけの『出産体験』なのに、どことなく神聖な雰囲気があった。