悦びは果てしなく-1
1.
清美が帰ってきた。
「所長さん、お元気そうね」
東京都池袋福祉事務所の元所長大月亮平が、毎週土曜日に行きつけのダンスパーティに顔を出すと、見慣れた顔がニコニコと近づいてきた。
「清美ちゃん!」
「ご無沙汰しました。戻って来ましたので又よろしくお願いします」
「癌はどうだったの」
「見つけるのが早かったので、放射線治療で治りました」
「そりや良かった。おめでとう。でご両親は?」
「母が亡くなりましたので、戻ってきたんです」
3年前、バーのオーナーをしていた清美は、母親の介護のため故郷の諏訪に戻って行った。その後、癌が見つかって治療をしていると伝えてきた。
「何年になるのかな?そう3年ねえ、前より若く見えるなあ、病気をしたなんて嘘みたいだ」
「所長さんも相変わらずお若いですねえ」
「所長さんはよしてくれ、もう退職して用無し老人をやってるよ」
「そんなあ、精力絶倫の所長さんが用無しの訳ないでしょう」
池袋西口の飲食街でバーを経営していた清美とは、長い付き合いだ。
店には5−6人の女性が働いていたが、色々と訳ありの女性も居て、福祉事務所の所長をしていた大月亮平が時に相談に乗っていた。
昨今は、シングルマザーで生活困窮に陥る女性も多く、生活保護の手続きや侠気のある清美の店に仕事の世話をすることもあった。清美自身、夫と死に別れ独り身で水商売の世界で苦労を重ねてきたので、店の女性の面倒をよく見た。亮平も安心して紹介をすることが出来た。
亮平は、清美の手をとってホールに出た。
「3年ぶり、踊れるかしら、もう忘れちゃったわ」
「すずめ百まで踊り忘れず、大丈夫だよ」
亮平に身体を預け、清美は目をつぶった。
(ああ、帰ってきたんだわ)
亮平の胸に頬を寄せると、瞼の奥に熱いものがこみ上げて来た。
シャツの衿口から、嗅ぎ慣れた亮平の汗の匂いが漂ってくる。
乳首が痒くなった。子宮が疼く。早く欲しい。