悦びは果てしなく-2
2.
話は、8年前に戻る。
サラリーマンをしていた清美の夫が、事故で急死をした。
幼子を抱えて清美は途方にくれたが、子供を抱えて仕事を探すのは至難の業。
たまたま売りに出た小振りなバーを、居抜きで買った。
池袋で生まれ育った清美には小学校以来の友達や知り合いが多く、何とか生活するだけの客は確保できた。
店が軌道に乗り、毎日の生活が単調なものになると、身体が疼いた。
精力の強かった夫は、夜毎清美を求めた。結婚以来、殆ど毎日のように房事を重ねた。
慣れぬ水商売で綿のように疲れた身体も、時が経ち余裕が出てくると、朝寝のぬくぬくとしたベッドの中で、股間が疼いた。
(あなた〜なんで私を置いて行っちゃったのよう)
新しい客がぼつぼつと顔を見せるようになり、そのうちに温和そうな中年の男が頻繁に来るようになった。閉店間際に来て、最後は清美と差しでグラスを重ねるようになると、身体の関係が出来るのに時間は掛からなかった。
疲れた身体も男の愛撫で、濡れに濡れた。清美は幸せだった。
頃合を見ていた男は、やがて清美に金をせびるようになった。清美が出し渋ると、撲る蹴るの お決まりの状態に。しまったと思った清美は、警察に訴えた。警察では男に電話で警告をしてくれたが、所詮は男女の恋愛のもつれだから、警察が深入りは出来ないと言われてしまった。
困り果てた清美に、近所のおばさんが、福祉事務所の所長さんに相談をしなさいとアドバイスをしてくれた。
わらをも掴む思いで、清美は福祉事務所を訪れた。
話を聞いた所長の大月亮平は、携帯番号を教えて、いつでも問題が起きたら電話をするように清美に伝えた。
男の暴力が始まると、清美は疑心暗鬼ながら所長に電話を入れた。正直、警察の対応を思い起こすと、福祉事務所がどれだけのことが出来るのか不安だった。
狭い階段を上がって部屋に入ってきた所長は、男を一発で撲り倒した。
「俺の女に手を出すな」
「ひえーっ」
男は、階段を転げるように逃げ出した。
「これでいいのかな、もうあの男は来ないから心配しないでいいよ」