その探偵は魅力的につき-2
アタッシュケースを持ちながら、彼女は事務所を後にしていた。
あの後、言わずもがな社長は退職を認め、給与返還は必要無いので、持っていけと言った。
さすがに彼女の特殊能力に畏怖したのか、それ以上の悪あがきはしなかったが、社長の顔はずっと赤いままだった。
「くだらないところで『チカラ』を使ってしまいました。でもこれでいやらしい目線からは卒業できそうです。」
少し疲れた様子で、そのまま自分の家へと帰って行ったのだった。
「随分と面倒な退職だったな。」
「本当です。無駄な体力を使いました。」
いつもの探偵事務所で柿里と神楽は先日の一件を話していた。
最も『チカラ』のくだりは濁しているが。
「ピアニスト辞めちゃったのか。勿体無い気もするけど、そんな会社は辞めて正解だな。」
「ピアノは一人で弾いているのが一番楽しいです。」
「その発言もどうかと思うが。」
「ところで、そろそろこの事務所も...」
「嗚呼、引っ越さないとだな。爆弾騒ぎもあったし、だいぶ場所バレしてるだろうからな。」
「喫茶店も閉じないとですね。」
「それは勿体無いんじゃ無い?」
「命を狙われるのは同じですけど...」
「う〜ん、まぁそうなんだけど。」
「引っ越し先でまたできたらカフェでもやりますよ。」
「あの少年、いや青年か。何も言わなくて良いのかい?」
「下手に教えては彼にも被害が及びますから。」
そうは言いつつ、青年のことは少し心配になっている神楽だった。