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探偵と悪魔
【ファンタジー その他小説】

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その探偵、閑雅につき-2

神楽は男を倒した後、影へと視線を向ける。
「そこにいるのでしょう。いい加減姿を見せたらどうですか。」
「へぇ、まさかこんな近くに''魔眼持ち''がいるとはね。」
影から現れたのは、一見少年のようにも見える男だ。しかし、間違いなく彼は悪魔だと確信する。
「人間界で悪魔に会うのは珍しくないけど、邪魔をされたのは今回が初めてだなぁ。」
その悪魔は舌舐めずりしながら神楽を見つめる。
「ボクはただ『食事』をしようとしただけなんだけど?」
「目的は血ですか?それとも魂ですか?」
「うーん、どっちも違うな。弱った人間の精気と、襲った方の欲求だね。後者はそれなりに頂けたけど。」
「インキュバスの仲間ですか。」
インキュバスやサキュバスは精気を吸うことで生きる悪魔だが、相手にするとなると、『魅了』が厄介だと神楽は考えた。
「同じ悪魔同士仲良くしない?ボクは食事さえ出来ればいいんだ。キミのテリトリーに入ったのを怒ってるなら謝るし、今後は必ず連絡するよ。」
彼なりの交渉のつもりなのだろうが、神楽ははっきりと首を横に振る。
「考え方の違いですね。私は人間を『食糧』とは思っていませんので。」
「おかしいなぁ。じゃあなんで人間界なんかにいるのさ。」
「悪魔界には飽きたからですよ。それにね...」
「それに?」
「私は人間の仲間です。」
「交渉決裂かぁ。残念だなぁ。キミとは仲良くなれると思ったんだけど。」
言い終わると同時に彼は闇へと姿を眩ます。神楽は即座に空を目指そうとする。闇の中では相手に分があると踏んだからだ。
「させないよ。」
飛び上がった神楽の足を掴み、引きずり下ろす。
そこからインキュバスの猛攻が始まる。
「ホラホラ、ボクの攻撃見えないでしょ?」
闇から放たれる一撃を辛うじて避けながら、次の一手を考える。
「次はどっちかな?アハハハハハハハッ。」
見えない相手に苦戦を強いられ、体力を奪われる。
先程の肩の傷が痛み出す。
「その血もイイねぇ。ボクが啜ってあげるよ。」
肩へ向けて攻撃を繰り返す相手に対し、黙々と攻撃を避け続ける。
(アイツ、見えてはいないだろうけど、戦い慣れてるな。ボクも早く決着つけないとマズいかもね。)
インキュバス自身、悪魔同士の争いを経験していないわけではない。
しかし、ここまでやられていながら粘り続ける相手は初めてだった。
(次の一撃で、腕を取る!)
強力な一撃を放つためには近距離で直接攻撃せざるを得ない。
早い攻撃で油断させて背後から狙う、
はずだった。

肩へと手を伸ばした刹那、彼女の魔力が一気に展開した。
「バカな!?こんな魔力、一体何処にあったというんだ!」
「喧嘩を売る相手を間違えましたね。」
彼女の瞳は黒でも赤でもなく...何処までも凍てつくような青い目をしていた。
直後、動けなくなったインキュバスは足元から崩壊を始める。
「なんで?!何が?!」
「...かつて突如消え去った''魔王''の話はご存知でしょうかね。」
「嘘、だろ!?」
「それでは、ごきげんよう。」
その一言を聞いた直後、インキュバスは跡形も無く消え去った。

「マスターさん、大丈夫ですか!?」
路地裏に青年を始め警察の人間が駆けつけた時には、
地面に倒れる不良達と拳銃を持ったまま怯えて震える男、
そして肩を押さえて壁に寄りかかる神楽の姿があった。
「お前撃たれてるじゃないか!?」
警部が部下達に事後処理を任せつつ駆け寄ってきた。
「ああ、警部さん。大丈夫、かすり傷です。」
「そうは言ってもだな。」
「彼らは...?」
「傷害罪と銃刀法違反で現行犯だ。坊やとお前さんの姿、筒を見れば充分だ。」
「ちょっとは治安がよくなればいいんですが。」
青年がようやく神楽に駆け寄る。
「マスターさん!」
「君も無事なようで何よりです。」
「マスターさんこそ病院に行かなきゃ!」
「人のことは言えませんね。これから病院にでも行きましょうか。」
「送っていこうか?」
警部が覆面パトカーを指差す。
「後処理面倒でしょう。歩いて行きますよ。」
「僕が責任を持って連れて行きます。」
青年は神楽に寄り添い、ゆっくりと病院へと歩いて行った。
その後ろ姿を警部はバツが悪そうに見つめているのだった。

「実は君に謝らないといけないことがあるんです。」
「マスターが謝ることなんてないですよ。」
「いいえ、君に内緒で店をたたむつもりだったんだよ。」
「そうなんですか。」
「驚かないんだね。」
「驚いてますけど、マスターには色々驚かされっぱなしなんで、今更って感じです。」
「そっか。」
「マスターって...女性だったんですか?」
「...いきなりなんでその話に?」
「以前、探偵さんに聞きまして。」
「柿里さん...後が怖いですよ。...それで?」
「納得しました。あの演奏は確かにそんな感じがしてました。僕いつかマスターさんを超えるピアニストになって見せます。そしたら、是非演奏を聞きに来てくださいね。」
「わかりました。」
病院前に着くと、青年はそっと神楽から離れる。
「それじゃ、僕はここで。」
「送ってくれてありがとう。」
「僕の方こそ。」
そう言って深々を頭を下げる。
「今までお世話になりました!」
神楽は背を向けたまま、手を挙げ、病院へと入って行った。

その1週間後、喫茶店と探偵事務所は新しい場所へと移り、青年のレッスン場所は姿を消したのだった。





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