逆転-1
男の屹立の動かし方に変化が見られた。奥に入れるときは素早く、手前に引くときはゆっくりと動かしていた。亀頭に感じる感覚が微妙に違うのだろうか。つまり、奥に入れるときのほうが粘膜に当たる感覚が強く、射精に早く導かれるという本能からか。
男は、今までと違って、夏純の反応にはほとんど関心を示さなかった。そして、口数も少なくなり、射精に集中しているようだった。
夏純は、肩にかつがれて割り裂かれた優美な脚を右に左にひねって、腰を男に密着しようとしている。男を求めて、深く味わおうとしている動きだった。その動きは、男が抽送を早めると、一段と激しさを増していった。
やがて、夏純の脚は、男の肩から離れ、宙を泳ぎはじめた。
そして夏純は、すすり泣くような嬉し啼きに、叫びが加わった。
「どうだ?……気持いいのか?」
激しい息づかいの合間に男がきいた。
「ああっ……」
返事とも息づかいとも取れるような声が尾を引いた。
「どうだ?……そろそろ……生きのいい……子種を……」
男は、抽送を早めていった。腰の動きが並ではなかった。
奥を突くたびに夏純の顎が上向く。そして、引き抜く際には、空気が入り込むのか、下品なぬかるんだ音が聞こえる。すでに男の竿は夏純の汁に包まれて真っ白だった。
男の汗が夏純の揺れ動く乳房の上に垂れていく。
夏純は、せわしない息使いとともに、数オクターブも高い悲鳴のような啼き声に移っていった。
やがて、男が、短い呻きを上げ、突然動きを止めた。腰を思い切り夏純に押しつけていた。
部屋に静寂が訪れた。子種の受け渡しが始まったのだ。
夏純の太腿がフルフルと震え、歓喜の痙撃を男に伝えている。夏純の腰もググッと持ち上がってきた。男に密着して、一滴でも子種を洩らしたくないような動きだった。
男の身体が夏純に被さっていった。それを受け止めるように夏純が男の背に手を回した。
二人の荒い息づかいが部屋の中に響くのが尚代の耳に届いていた。
尚代はなんとか、右手が動かせるようになり、今は、右足をほどきにかかっていた。幸いなことに、男は夏純の身体にしがみついたまま、尚代の方は見ていなかった。
(急がなくては……)
懸命に右足の結び目を解きにかかっていた。運良く結び目は、椅子の外側にあった。
(あっ、緩んできた……)
やがて、大きな息を吐き、男が上体を起こした。
そして、男が放出し終わり、屹立を抜くために腰を浮かせた。夏純もそれに合わせて、息を大きく吐き、宙に浮いた脚をゆっくり降ろしていった。
男が屹立を一度抜いた。
息を荒げたまま、ベッドの上で夏純の右側に並んで仰向けになった。
放出したというのに、男の屹立は依然として天空を向いたまま、ゆっくり蠢いていた。
「まだ、出し足りないみたいだな」
男は呟くと、上体を起こし、また夏純の股間に手を伸ばした。
夏純のポチャッとした腹を枕にして、夏純の尖りを親指と人差し指で弾いては、中指で撫で回していた。それから、手を下げ、アナルの前の柔らかい蟻の門渡りに指を遊ばせ始めた。
「ううん……いやぁ……」
「また、濡れてきたみたいだな」
依然として、尚代の方は見ていない。
尚代は左足の結び目に移っていた。解きながら、どうやって男から逃げだそうかと必死で考えていた。
(あっ、緩んできた。もうちょっとで……あっ!解けたわ)
タオルケットの下で、尚代は完全に自由になっていた。
(あとは、タイミングだわ)
尚代は、目を閉じて、心を落ち着かせていた。
「おい、夏純奥様。……お土産は多い方が良いだろう。上手くすれば、双子が生まれるかもな。……尚ちゃんの子供と同じ誕生日になったりして、なぁ、尚ちゃんよぉ」
尚代は目を閉じたままだった。
「ふふ、尚ちゃん。……疲れちゃったみたいだね。……まぁ、お姉ちゃんの方が落ち着いたら、明るいうちにピアスかタトゥーをしてやるからな。それまで、ユックリ寝てるんだぞ。もう少しお姉ちゃんの相手をしているからな。……ははは」
尚代は、じっとしていた。
窓を閉じた部屋が幸いして、椅子全体が影に隠れ、男は尚代の様子の変化に気がつかなかった。