負の『一期一会』-4
夕方のニュースは、すべての局が幼稚園の発砲事件で占められていた。園長の顔が大写しされ、さっき男が聞いた拡声器の言葉が何度も流された。
「どうなるんだろう……どうしよう……」
男は娘を膝で眠らせながら、自分が起こしたかも知れない この出来事の細部をうかがっていた。
「アホちゃうか、こいつ。」
妻がスマホの画面を見て言った。
「どうしたの?」
男が言うと、妻は
「ここにおるカナメくんから、メールが来よったんや。」
と、男に画面を示した。そこにはショートメールが表示されていた。
【発信元】ψψψ-ψψψ-ψψψ
カナメです。スマホを機種変更しました。新しい番号を登録してください。
新しい番号は ζζζ-ζζζ-ζζζ
とり急ぎお知らせまで ではまた。
男は思い出した。昼間父親が聞いてきたショートメールの事を。たぶんこんなメールだったのではないか。
そして男は、新しい番号に目が釘づけになった。それは男が「大佐」に言って、新しく受け取ったばかりのスマホの番号だった。そのとき、
ピンポーン!
男の家のインターホンが鳴った。すかさず妻が出て、短く話したあと男に言った。
「カナメくん、マンションの駐車場の管理の人が、車にスマホ忘れとるって言うてはるよ。」
「あ!」
すっかり暗くなった駐車場で、男は娘のチャイルドシートのワキに 自分のスマホを見つけた。
(もう、スマホどころじゃなかったもんな。)
男がスマホを確認すると、両親親類知人からやたら着信があった。
(そうだ。事件のことでだな。)
しかし、その中にまじる
ψψψ-ψψψ-ψψψ
の番号……あのショートメールの発信元ではないか。
男がスマホの画面を見ながら たたずんでいると、突然、
ブルッ、ブッブッブッ ブルッ、ブッブッブッ……
【着信】ψψψ-ψψψ-ψψψ
あの発信元からの着信だった。男はスマホに出た。
「ブォッ、ホッホッホッホ……」あのデンベエの声だ。男は怒りをこめて言った。