負の『一期一会』-2
「もしもし……」男が出ると、
「おう、カナメか。」父の声がした。「いま、お前からショートメールが入ったが、お前スマホの番号を変えるのか?」
男は「いや、変えたりしないよ。」と答えた。父は向こうで、
「そうか。じゃ、これは何かの詐欺だな。」と言った。
「そうだね。何かの詐欺だね。」と男は言った。言っていて男は、自虐気味に笑った。
「じゃあ、これは削除しておくわ。やっぱり速攻で連絡してよかった。」
「そうだね。気をつけてよ。詐欺の手口はどんどん新しくなっているから。」
男と父の会話が終わったころ、机の上で「社用」のスマホが着信した。
「……はい、こちら危険サイバー監視機構です。」
そう言う男が聞いたのは、さっきのデンベエの声だった。
「タコサクさん、教えてくれんかね。私はどうすればいいんですかね。」
男は少し作り声をして、
「私は先程の者ではありません。それに、そのような者は こちらにはおりませんが。」
と返した。しかしデンベエは、
「ブォッ ホッホッホッホ……」と笑うと、こう言い放った。
「タコサクさん、タコサク カナメさん。そんな事言うんでしたら、ポリロン幼稚園のカエデちゃんが、どうなるか知りませんぞ。」
男の背中に寒気が走った。こいつ、なぜ自分の名を そして娘の名を知ってるんだ…
気味が悪くなった男は、そのスマホを持って「大佐」の机に向かった。
「大佐、このスマホ 番号があやしまれてます。」
そう言うと「大佐」はそばのカゴに山盛りのスマホを指さし、
「じゃ、そこからどれか持っていけ。」
と言う大佐はタブレットで児童ポルノを眺めていた。
「もしもし、こちら国の機関の、危険サイバー監視機構と申します……」と繰り返し続ける男。その胸ポケットのスマホが、
ブルッ、ブルブルブル ブルッ、ブルブルブル……
震え出した。取り出して見ると画面に
『 着信 妻 』
男はあわててスマホに出た。
「どうした、まさかカエデに何かあったのか?!」
すると向こうで妻が叫んだ。
「そうやねん、 カナメくん、すぐ幼稚園に来て!」