くすぐられた母性本能-1
翌朝、9月にしては蒸し暑く、昨晩の激しいセックスの為かけだるさを感じた玲子だったが、子供たちを送り出すために早朝から朝食と弁当の支度にとりかかっていた。
10月からは幸一のいない生活が始まる、最後の休日転勤の為の買い物や準備をしなければならない、そんな事を考えていた。
子供達も8時には起きて用意された食事を食べ弁当を持って部活や塾に出かけて行った。
幸一は9時過ぎまで休んでいたがようやく食卓に顔を出した。
「ねえ、今日は買い物付き合って・・あなたの転勤の準備もしたいし、たまには外でランチでも、いいでしょう?」
「ああ、いいよ最後の休日だ」幸一も快く応じた。
そんな時であった、隣の長屋から子供のけたたましい鳴き声が聞こえた。
「どうしたんだ・・子供の声だよな」
幸一は怪訝そうな顔をして玲子と顔を見合わせた。
「そうね、どうかしたんでしょうか」
すると今度は男の怒鳴る声が聞こえた、泣き叫ぶ子供と怒鳴り声に玲子は思わず勝手場の戸口から顔を出して隣の様子を伺った。
しかし周りの住宅から様子を伺う者は誰一人として見当たらなかった、近所付き合いに乏しいこの辺りはよほどの事がない限り無関心を装うのである。
暫く怒鳴る男の声と泣き叫ぶ子供の声だけが住宅の静けさを裂いていた。
「ありゃあ子連れのヤモメだな、お前もあまりかかわらない方がいいぞ、何しでかすかわからないからな」
幸一は心配するように玲子に言った、それは玲子には優しい世話好きの性格であることを知っていたからであった。
通常は隣に引越しがあれば挨拶回りなどがあるものだが、近年全く無い長屋である。
「おい、純 俺は来週から仕事に行くお前はしばらく学校を休め、飯はこの金でパンかラーメンでも買って食っていろ」
松川は小さな運送会社に職を求め、臨時の運転手の口を探してきたのである。
純はまだ小学2年生である、松川は3年前に離婚してこの子供を養育しているのだが正直養育とは程遠い状態である。
10月に入り幸一は名古屋への単身赴任が始まっていた。
玲子はいつも通りがかりのスーパーに立ち寄りたまたま純を見かけたのである。
「ねえボク、隣の子でしょ」声をかけた。
玲子を見上げるつぶらな瞳がとても愛くるしく玲子は感じた。
「隣のおばさんよ、今日はお買い物?」
少年は首をコックリと下げて応じた。
まだ幼い子供では買い物といっても大したモノでもないと感じた。
「パパは・・・お仕事」
「うん」少年は初めて小さな声で答えた。
「遅いの、ごはん食べてる?」
やせ細ったあどけない顔が玲子には堪らなかった。
「今日はおばさんが何か作ってあげる、届けるからパパと食べなさい」
そう言って少年と別れたのであった。
夕方になり電気の付いていない松川の家が心配になり玲子は玄関から声をかけると中から少年が出てきた。
「いたの、ボクは名前なんて言うの」
「ジュンです」小さな声が返ってきた
「後から食事持っていくから待っててね、パパの分も作っていくから」
玲子は少年が帰宅している事に少し安堵していた。
「お母さん今日はチャーハンなの、珍しいね」
亮子は夕食にチャーハンが出ないことでそう言ったのだ。
「実はね隣の松川さん、まだ小さい子供がいてね、今日たまたまスーパーで見かけたの、どうも食事もしっかり食べていないみたい、だからチャーハンでも食べさせようと思ってね」
「優しいねお母さん、でも隣のおじさん気を付けた方がいいよ、なんだか怖い」
「亮子見たの松川さん」
「うん、部活の帰り目が合ったんだよ」
娘の話を聞きながらそれでもあの少年のけなげなさを放っておけないと思っていた。
「亮子、隣に食事持って行ってくるから先にマー君と食べてて」
玲子は皿に盛ったチャーハンをお盆に乗せて出て行った。
「ジュン君」
玄関の戸を開けて声をかけた。
少年は待ちわびていたように襖を開けて駆け寄った。
「パパはまだなの」
「うん、いつも遅い」
初めて玄関から見る部屋は相当散らかっていて、カビ臭い臭いも鼻についた。
玲子は少年に断って部屋に上がり込んで食卓と思われる部屋に入った。
煙草の吸殻が灰皿に溜り、食べかけのカップラーメンや菓子パンが放ってあった。
「ジュン君、ここに置いていくからパパにも食べてもらって、お皿は明日おばさんが来るからそのままにしてくれていいから」
そう言って帰ろうとしてふと目をやると敷きっぱなしの布団の脇にいかがわしい雑誌が散らかっていて思わず本を閉じたのである。
それはまだ幼い少年に触れてはならないと思ったとっさの行動だったのであった。
「どうだった」亮子が聞いた。
「まだ松川さんは帰っていなかったわ、あの子学校へ行っているのかしら」
その会話を聞いていた正孝が言った。
「行っていないよ、見かけないから」
「そうなの・・・明日民生委員の方に相談しようかしら」
玲子は少年の先行きを心配するのだった。
夜8時過ぎていた、松川恒夫は疲れた様子で帰ってきた。
「おかえり」
純は父親を見て言った。
「あれ・・誰か来たのか?」
「うん、隣のおばさんチャーハン持って来てくれた」
食卓に置かれたチャーハンを見てさすがの松川も明るい顔を見せた。
「うまそうだな・・・」
上着を脱ぐと椅子に腰かけガツガツと食い始めた。
「うめえな〜、どんなおばさんだった」
松川は純に聞いた・・・・。
「綺麗なおばさんだよ、髪の毛の長い・・」
「そうか・・別嬪か俺も見てみてえな、今度教えろ」
松川はご機嫌そうにチャーハンを平らげた。
そして布団に寝転ぶとさっきの成人雑誌を拾い上げ開いた。
(こんなグラマー女だろうか・・・)
そこには暫く女を抱いていない男の欲望が沸々と湧き上がっていた。
(クソッ遣りてえな・・・チ○○が固くなりやがったぜ)