突然の別れ-4
「お通夜は明後日だけど、明日もお見舞いに来てくれる方もいるし、何かと忙しくなるから、もし都合がつくようだったら、明日から顔出してくれないかしら?」
あまり他人行儀にしているよりかは、甲斐甲斐しく顔を出しておいた方が印象もいいし、晃彦が居づらくなることもないだろうと百合子は思っていた。
「わかりました。なるべく早く来るようにします」
晃彦も百合子の心遣いを感じ取った。
「親戚も主だった所は来ているから、この話をしちゃいましょうか。その方が晃彦さんだって居づらくないでしょう」
そう言って、豊川、望未、菜緒を連れだってリビングに移動した。
「晃彦さんには親戚として出席してもらうことになったから、皆さんお願いしますね。これはお父さんのたっての希望でもあるから、色々言いたい人もいるかもしれませんけど、そこのところは汲んでください。望未も同意の上です」
10人ほどの親戚の前で言った百合子の言葉は、落ち着いたトーンではあったが、反目は受付けませんと言っているかのように聞こえた。
「まったくの他人ってわけじゃあないし、お姉さんが文句ないんだったら・・・・・・ねぇ」
紀夫の義理の妹(実弟の嫁)は、『好きにしたらいいんじゃない』と言わんばかりに周りに同意を求めた。
悪い人ではないのだが、何事につけてもすぐに仕切りたがる悪い癖があった。この場面では却ってそれが良い音頭取りになってくれたのか、親族からネガティブな反応は一切なかった。
「ありがとう。じゃあ、晃彦さんよろしく頼むわね」
そう言い残して、百合子はその場を離れた。
その場の面々は、それぞれまた話に花を咲かせ始めた。
望未と姉の真澄、妹の美佳代は葬儀屋との打ち合わせがあるといって、席を離れた。菜緒も久しぶりに会った従姉妹たちと2階の部屋で遊んでいる。
一人親戚の中に取り残された豊川は、一応親戚の面々に声を掛け、頭を下げた。
「場違いかとは思いますが、よろしくお願いします」
「いいえぇ、わたしたちは別にかまわないけど、そっちの方が大変じゃない。それより望未ちゃんと寄り戻すの?」
話し好きの実弟の嫁は、待ってましたとばかりににじり寄って来た。
「いえ、そういう訳ではないんですけど、別れた後もお義父さんには色々と世話になっていまして」
今日この場に居る理由を、ざっくりと掻い摘んで話した。
「ああ、そうだったのね。義兄さんは男の子がいなかったからねぇ」
合点がいったようで、それ以上、特に望未とのことについては追及は無かった。他の親類たちも理由をわかってくれたようで、少なくても表面上は訝しがることもなく、豊川の出席を迎え入れてくれた。
親戚たちと世間話をし、時計を見ると21時を過ぎていた。豊川のアパートまでは、電車でおよそ2時間30分はかかる。そろそろ帰らないと最終に間に合わない。
百合子に声を掛け、帰宅の準備をしていると、元義理の兄(望未の姉・真澄の夫)井上克成が『駅まで送っていくよ』と言ってくれた。
克成の申し出に甘えることにし、駅まで送ってもらうことになった。
「色々大変だなぁ」
克成は車に乗り込むなり、豊川の置かれる立場に同情してくれた。
克成は、女系家族の親戚たちの中では数少ない男性面子であり、離縁前には一番話をする間柄でもあった。
「親父さんには本当に世話になったんで、その辺はそこまで気にならないですけどね。ただ、望未との距離感がどうも・・・・・・」
「そうだろうな。親戚って言ったって、年に1、2回顔を合わせるだけだし、言ったってたいしたことはないけど、昔の嫁さんとは微妙だよな」
「俺の方はそこまで気にはしていない・・・・・・はずだったんですけど。実際に6年ぶりに会ってみると、やっぱり気まずいなと思って」
豊川の正直な気持ちだった。
「気まずくならないわけはないと思ってましたし、ある程度は覚悟してましたけど、思っていた以上だったなぁ」
「元鞘ってことはないの?」
「無いでしょう。終わり方が終わり方だったんで、考え方によっては離婚の決着もできてないわけですから」
豊川は苦笑いしながら義兄の問に答えたところで、車は駅のロータリーに到着した。
「明日、連絡くれたら迎えに来るけど」
克成が気を回してくれた。
「すいません。でも、便が悪いわけじゃないし」
「俺もあの場にいるのがちょっと・・・・・・な。外様の身としてはさ」
豊川の方が、離婚した身と言う足枷がある分ハードではあるけれど、お互い婿殿としての立場は一緒だ。
「じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
克成に迎えに来てもらう約束をし、豊川は改札口に向かった。