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離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

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訃と夫と婦-1

 翌日。お通夜前日。
 この日は、10時過ぎに義兄の迎えで紀夫宅に着いた。
「無理言って申し訳ありませんね」
 百合子は顔を見るなり豊川を労った。
 既に近所の人たちが見舞いとして線香をあげに来ていた。百合子は、近所の人たちの相手をすることに加え、喪主として葬儀屋とのやりとりもしていててんやわんやの状態だ。
 望未たち三姉妹もお茶出しや、話し相手などで忙しなく動いている。親戚たちも、知り合いや顔見知りが来るたびに、思い出話などを話し込んでいる。
 結局、知り合いも少なく、取り立ててやることもない克成と豊川だけが手持無沙汰な状態で、部屋の隅に座っている。
 この状態が、昨日別れ際に克成が言っていた『外様の肩身の狭さ』だったのだ。
 別に何もしないからと責められることはないのだが、当人たちにとっては何とも居心地が悪い空間だった。
 手伝おうにも、そのミッション自体がないのだからやりようがない。
 当初、お見舞い自体はそれほど多く来るとは見込んではいなかったようだが、思っていた以上に訪問者が多い。
「克成さん、晃彦さん、ちょっといいかしら」
 客足が途絶えたところで、百合子からお呼びがかかった。
「思ってた以上にお見えになるらしいのね。警察時代の人たちの話によると。だから色々と予定外のことが増えてきちゃってるのよね。だから申し訳ないんだけど少し手を貸してくれないかしら」
 手持無沙汰な二人にとっては願ったりの話だ。
「遠慮せずに言ってください」
 二人は口を揃えた。
「そう、ありがとう。助かるわ。じゃあ、買い出しを克成さんに頼もうかしら。買ってきて欲しいものは真澄に話してあるから、聞いてくれる。追加があれば買い足しちゃってかまわないから。で、晃彦さんはお通夜や葬儀のスケジュールとか、葬儀屋さんとの打ち合わせが色々とあるのよ。そっちを手伝ってくれないかしら。そういうの得意でしょう」
 克成は調達役、晃彦は調整役を与えられた。特に話す相手もいない二人は、早々に仕事に取り掛かった。

 慌ただしい一日だった。陽も暮れる頃、ようやく弔問客の足が途絶えた。
 近所と親しい友人ぐらいしか見舞いには来ないと思っていたが、警察官時代の友人や知人などがけっこう訪れてくれた。
 中には、所轄時代に色々と世話になったからと、片道2時間もかけてきてくれた老人もいた。
「ノリさんは面倒見が良かったからなあ」
 今でも付き合いのある、一つ下の古波蔵聡がしみじみと言っていたのが印象的だった。
「自分も沖縄からこっちに出てきて、何にもわからないことばかりでしたが、何かと世話を焼いてくれたんですよ」
 豊川は、古波蔵の話を聞いていてその気持ちが良く分かった。自分も娘の望未と別れて、付き合いは終わったはずだったが、何かと手を差し延べてくれたのが紀夫だった。
「目付きが鋭くて、パッと見は近寄りがたい雰囲気なんですけど、実際に話してみると正反対でしたからね」
 今日一日様々な関係の弔問客が来てくれたが、一様に紀夫の人柄の良さを口にしていた。
「まだ始まってもいないのに、何だか疲れちゃったわね。皆さんご苦労様でした」
 百合子は今日一日の慌しさを振り返りながら、手伝い手の親戚たちに労いの言葉をかけた。
「もうこの時間だし、これから来る人はほとんどいないでしょうから、私たちもご飯にしましょう」
 克成が追加で買ってきた寿司やオードブルなどを広げ、ささやかな紀夫を送る会が始まった。
「お父さんはお酒が好きだったから、皆さん遠慮なく飲んでくださいね。供養ですから」
 百合子自らそれぞれに献杯用の猪口に日本酒を注いで回った。
「晃彦さん、今日は泊まっていくんでしょ。だったら大丈夫よね」
 そう言って、晃彦の猪口に注いでくれた。
 豊川は元々駅前のビジネスホテルかサウナにでも泊まろうかと思っていた。近隣に工業団地もあるため、ウィークデーは混雑しているが、週末はさほど混んでいないことを知っているので、飛込みでも問題ないだろうと踏んでいた。
 最初のうちはしめやかに進んでいたが、皆酔いが回ってくると騒々しくなってきた。
 豊川は、百合子の許しが出たとはいえ、肩身の狭さを重々承知しているので、隅の方でチビチビと飲んでいた。
 察してくれた克成が途中から横に座って飲んでいた。
「やっぱり遠いとさ、親戚付合いが薄くなるからこういう場で話せる人が少ないんだよね」
 外様、しかも遠方の外様は立場的に弱いと愚痴めいたことを言っていた。確かに、別れたとはいえ、克成よりも親しく話せる親戚は豊川の方が多いように思えた。

「時間も時間だし、この辺で失礼するよ」
 21時を過ぎた頃、紀夫の実弟夫婦が腰を上げたのを機に、とりあえずこの場はお開きになった。
 今日来ている紀夫の兄弟や百合子の兄弟たちは、そんなに遠くない所に居を構えている。遠方の兄弟は明日から来ることになっており、真澄家族はこのままここに泊まる予定とのことだった。
 兄弟たちが帰ると、紀夫宅には姉家族と豊川家族が残った。
「ねえ、おばあちゃんちに泊まっていってもいいでしょ?」
 菜緒は、同年代の従姉妹たちと話に花が咲いているようで、一緒に泊まりたいと言う。
「かまわないけど、大丈夫?」
 菜緒はしょっちゅう泊まりに来ているので、慣れたものではあるが、真澄家族も泊まるので、部屋や布団を気に掛けた望未が百合子に確認を取った。
「別に平気よ。何なら晃彦さんが泊まっても大丈夫よ」
「僕は駅前のサウナに泊まるつもりですから」
「遠慮しなくていいのに。それよりも、望未。あなたも泊まっていったら?」
 望未はいつになく酔っていた。実の父が亡くなった悲しみはそれだけ深いのだろう。特に離婚したここ数年は、何かと援助もしてもらい、生活の上でも精神的にも支えになってくれていたはずだろうから、余計である。


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