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離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

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突然の別れ-3

「多分、縁側に行ってすぐ心筋梗塞になったんじゃないかって先生が。いつも通りお茶を出していればすぐに見つけてあげられたのに。昨日に限って・・・・・・それが引っ掛かっちゃってねぇ」
 百合子は、普段通りと違ったことに後悔の念を抱いているようだが、こればかりはどのタイミングで起こり得るかはわからない。たまたまいつもと違うことが重なったように見えるけれども、それは後付けであって、もしかしたらそのタイミングで紀夫あての電話があったかもしれないし、郵便が届いたかもしれない。
 そうすれば発見が早かったかもしれないし、逆にもっと遅くなっていた可能性だってある。
「お義母さん。こればっかりは、どうにもならないことだと思います」
 豊川はそう言うしかなかった。
「折角、大きなヤマを乗り越えたかとおもったのにねぇ」
 百合子は、そう言って涙を拭った。
「さ、さ、こんな所じゃなんだから、上がってお義父さんの所へ。望未には私から話してありますから、気にしなくていいですからね」
 こんな状況であっても、しっかりとした心遣いを忘れない百合子にあらためて敬意をこめて礼をした。

 紀夫の身体は、床の間のある和室に安置されていた。
「お義父さん。晃彦さんが来てくれましたよ」
 部屋に入ると線香の匂いが漂っていた。
 豊川は紀夫が無くなったという現実を理解していたが、この線香の匂いで一層現実味が増したように思った。
「さ、お顔を見てあげてちょうだい」
 そう言って、遺体の顔の上にかけられていた白い布を取った。
 豊川の心臓は、バクバクと脈打っていた。顔を見た瞬間、ほんの少しだけ残っている死に対しての『信じたくない』が、打ち砕かれるのだ。
 紀夫の死と言う現実を受け入れる瞬間がそこまで来ているかと思うと、脈が速くなるのがわかる。
・・・・・・穏やかな死に顔だった。
いや、一般的に見れば決して穏やかとは言えないかもしれない。まっすぐ前を見つめた死に顔は、まさに警察官のそれ。実直に警務をこなしてきた紀夫らしい顔だった。それだけに険しいと感じる人もいるだろう。でも、鋭い眼差しや厳しい表情を知る者にとっては非常に穏やかな顔に見えた。
「癌の転移で亡くなる人って、痩せ細って別人の顔になってしまうって聞いてたから、お父さんらしい顔で逝けるのは、それはそれで良かったのかもしれないわね」
 豊川も百合子の言葉に頷いた。
 豊川も、実際に癌で亡くなった人の顔を見たことがあったが、面影がようやくわかる程度で、生前の印象に残っている顔とは別人だった。
 癌を公表し、メディアの前に立つ芸能人もいるが、一様に元気だった頃の顔立ちとはまったくの別物にしか見えないなんてことはよくある。
「晃彦さん」
 少しの間、無言の時が続いていた中、百合子が豊川に声をかけた。
「葬儀のことなんですけどね、どういう立ち位置で出るつもり?」
 考えてもいなかった質問に、豊川は言い淀んでしまった。
「いや、知人として出るつもりですが・・・・・・」
 望未と別れている以上、立ち位置も何も知人以外の何物でもない。親戚として出るつもりでいるとでも思っているのだろうか。元義理の関係で、継続して紀夫から可愛がってもらっていたとはいえ、戸籍上は何の関係もない他人だ。あつかましく親戚を語ろうなんて微塵も思っていなかった。
「そう。だったら親戚として出てくださいな」
「ええっ!?」
 思いもよらない一言だった。
「お父さんもそう思ってるはずです。そう言い残していったわけではないけど、生きていれば『何を水臭いこと言ってるんだ』って怒られるわよ」
 豊川は嬉しく思った反面、親戚一同からどのような目で見られるのか、特に望未の反応が気になるところだ。
「望未や親類たちには、私から話します。お父さんたっての希望だって」
 豊川が気になっていることを察したのか、すぐさま百合子はフォローすることを確約してくれた。
「そうね、望未をここに呼びましょうか。その方が話が早いわ。あの娘もお義父さんを前にしちゃあ、無駄口は叩けないだろうから」
豊川は、倉田家に着いて直接床の間に来てしまったので、まだ望未とは顔を合わせていなかった。気軽に話せるような別れ方では無かったから、どのように声を掛けて良いか悩んでいたこともあって、また鼓動が速くなってきた。
 待つ時間が長く感じる。
 百合子が部屋を出て間もなくして、百合子が戻って来た。百合子の後から望未も入って来る。菜緒も一緒だった。
 望未と目が合った。実に6年近い時を経た再会。父の死のせいか、それとも日々の生活の疲れなのか、もちろん歳のせいもあるだろう。最後に見た彼女の姿に比べて、少しやつれた感が見えた。
「久しぶり」
 豊川の口から出た言葉は、極々自然な挨拶だった。
「うん」
 望未も言葉に困ったのか、素っ気無い一言だった。
 望未は百合子に促され、おずおずと百合子の横に座った。
「わざわざどうもありがとう」
 望未は、父への弔いの礼を言った。しかし、その後二人の会話は続かない。
「パパ、明日も来るの?」
 その雰囲気を察した菜緒が言った。こういうところで勘所を押さえて発言するのは菜緒の長所だ。空気を読むことに長けているのだ。
 来ていいものなのか、悪いのかを推し図っていると、百合子から命令とも取れる言葉をもらった。
「葬儀の予定が決まったのでお伝えします。明後日がお通夜、明々後日が告別式です。会場は、セレモニーホール蓮照館で執り行います。晃彦さんには、親族として出席してもらいます。いいわね、望未」
 望未は驚くことも無く、こくりと頷いた。認めた。いや認めざるを得ないのだろう。親戚たちの反応がどう出るかはわからないが、とりあえず元嫁の承諾は受けたと思ってよい。これでコソコソとせずに参列出来ることになる。
「ありがとうございます」
 豊川はあらためて礼を言った。


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