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嘘だ。何かの間違いだ。
一気に全身に鳥肌がぶわあっと立ったと思ったら、今度はその毛穴という毛穴から汗が吹き出してくる。
そんな俺の様子なんてお構いなしに、ニュースはその男性の殺人事件の詳細を次々と読み上げていった。
画面には、容疑者の高校時代のアルバムの写真だろうか、髪の毛を2つ結びにしたあどけない笑顔が映っている。
間違いない、結衣さん本人だ……。
急に吐き気がこみ上げて来て、口を手で押さえながらも、なおもテレビの画面に目を凝らす。
『宮下容疑者は、被害者男性が寝ている隙に隠し持っていたロープで絞殺したとみられ、また、動機については、“男が簡単にナンパにひっかかるので面白くて殺した”と供述しております。また、この近辺のホテルでは数日前から同様に男性が絞殺死体で発見されている事件が相次いで発生しており、宮下容疑者との関係をさらに追求していく――』
もう、ニュースの後半は頭にほとんど入らなかった。
でも、確かなのは結衣さんは、人を殺していたってこと。
しかもそれは恐らくナンパで引っ掛けた男達だってこと。
もしかしたら、俺も殺されていたかもしれない――?
全身の血の気が引いて、自分がふわふわ浮いているような、妙な感覚に陥る。
俺に向けてくれたあの笑顔、どこまで本心だったんだろうか。
すると、突然テレビがプツ、と消えた。
半ば反射的に前田の方を見やると、リモコンをテレビに向けたままの格好で固まっていた。
その顔色は真っ青で、唇が小さく震えていて。
テレビを凝視していた前田の黒目がゆっくりこちらを向いたと思ったら、奴はそのまま何かを言いたげに口をパクパクさせている。
「ど、どうしたんだよ前田」
俺もかなり気が動転してるけど、前田はもっと様子がおかしい。
よく見たら、唇だけじゃない。リモコンを持つ手が、肩が、全身が震えているのだ。
そんな前田の様子を固唾を飲んで伺っていると、奴の唇の小さな隙間から、かすれた小さな声が聞こえてきた。
「あ、あ……その、オレにつきまとってた女って……今のニュースに出てた……違……オレのせいじゃない……」
そこまで言うと、奴はそのまま頭を抱えてひたすら首を横に振っていた。