3-5
「曽根さん……」
コツン、と彼女の頭が俺の胸の辺りにもたれかかる。
シャンプーのいい匂いは俺の使ってるソレとは違って、とても華やかで甘い匂い。
女の子って、なんでこんなにいい匂いがするんだろう。
小さくて、か弱くて、守ってあげたくなる。
スンスンと小さくすすり泣く彼女の頭を優しく撫でながら、俺はこの娘を大切にしようと、心の中で誓った。
◇
「曽根〜、もう諦めろよ」
俺のベッドで肘を立てて寝そべりながら、呆れたように言うのは、友人の前田だ。
奴の視線の先にあるのは、さっきから何度も同じ動作を繰り返す俺の背中。
でも、俺にはそんな前田の言葉なんてまるで耳に入らず、ただひたすらにスマホを弄っていた。
おかしい、おかしい、おかしい。
画面には、結衣さんの携帯番号。
そして俺はまたしても発信ボタンをタップする。
だけど、スマホから聞こえて来るのは「お客様のおかけになった番号は、電波の届かない場所におられるか……」という聞き飽きたフレーズ。
それを途中で切って、また発信する、そんな動作の繰り返しだった。
あの、結衣さんからの逆ナンによる出会いから早2週間。ずっとこの調子なのだ。
ラブホで一夜を過ごしたあの日から。
あの夜は、もちろん疚しいことなんて一切なくて、二人で食べ物を注文しながら、寝る間を惜しんでおしゃべりに花を咲かせた。
結衣さんはその時もたくさん笑ってくれたし、俺もたくさん笑った。
時々カラオケもしたりして、俺の音痴も明るく笑い飛ばしてくれた結衣さん。
二人が眠りについたのは明け方で、それまでとても楽しい時間を過ごせたと思っている。
そんな充実した時間を過ごした俺は、満足したのか相当深い眠りについていたのだろう、次に目を覚ましたのがお昼近くになっていたのだ。
そして、俺は起きてすぐ異変に気付く事になる。
部屋に俺以外の人の気配が無くなっていたのだ。
そう、結衣さんの姿が消えていた。
ホテル代の1万円だけを残して。