投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

離婚夫婦
【熟女/人妻 官能小説】

離婚夫婦の最初へ 離婚夫婦 35 離婚夫婦 37 離婚夫婦の最後へ

縁側-2

 豊川が義父の家に行くのは本当に久しぶりだった。かれこれ7〜8年ぶりだろうか。
 道順を思い出しながらハンドルを握るも、当時あった店が別の店に変わっていたり、新しいマンションや店舗が出来ていたりと、風景が全然違って見える。
 幹線道路から、義両親が居を構える住宅街に入ると、そこは当時と変わっておらず、すぐに家までの道筋が見えた。

「こんにちわー」
 菜緒が我が家のように入っていく。かなりの頻度で訪れているのがわかる。
「あら、晃彦さん。その節はお世話になりました。今日も無理言ってごめんなさいね」
 台所から顔を出した百合子が頭を下げた。
「いえ、僕の方こそのこのこと」
「何言ってるのよ。そんなこと気にしてるんだったら、お父さんの恩人として招待されたと思えばいいじゃない」
 恩人だなんて大袈裟な表現に聞こえたが、百合子にとってはそれほどまでに、紀夫との面会の機会を作ってくれた豊川に感謝していることが伝わってくる。
「お父さんは裏にいるから、申し訳ないんだけど外から回ってくれるかしら」
 裏庭に回ると、紀夫は縁側に腰かけ、何か刃物のような物を丁寧に磨いていた。
「おう来たか」
 豊川の姿が見えると、作業の手を止めた。
「のこのこと家にまでやって来てしまいました」
 豊川は軽く頭を下げ、苦笑いを浮かべながら言った。
「気にするな。仕組んだのはこっちだ」
 やはり意図があってのことだった。
「あの時の礼もしなくちゃならんし、タイミングを計っていたんだよ。まあ立ち話も何だ、こっちに来て座らんか?」
 豊川は言われた通り縁側に腰掛けた。
「悪いがもう少しだけ待ってくれるか?あとちょっとで研ぎ終わるんだ」
 紀夫の手元を見ると、それは彫刻刀だった。紀夫は趣味で版画をやっている。多分版画で使うものだろう。
 研ぎ終わると、目の前に掲げ、研ぎ具合を確認している。
 納得できたのか、ゆっくりと頷き、彫刻刀を道具箱に戻した。
「明日は予定あるのか?」
「いえ。特には」
「そうか、じゃあ今日は泊まっていけばいい。それなら気にせず飲めるだろ?」
 元警察官なだけに、飲酒への気配りは欠かさない。
「でも・・・・・・」
「望未のことなら心配しなくていい。昨日から泊りがけで北海道に行ってるから、戻りは明日の夜だ」
「そのことは菜緒から聞いてます」
「別れたカミさんの実家ってことを気にしてるのか?」
「ええ、まあ」
 元嫁の実家に顔を出すことぐらいでも気に掛かるのに、ましてや泊まるとなると気が引ける。
「だったら俺の客人だと思えばいいじゃないか?」
 いいじゃないかと言われても、そう簡単に踏ん切りがつけられるものでもない。ただ、こうやって歓待してくれることは非常にありがたい。義両親の心遣いを無下にするわけにもいかない。
「わかりました。一晩厄介になります」
「うん」
 紀夫は納得したように頷いた。
「お祖父ちゃんこんにちは」
 物陰から二人の会話を聞き耳立てていたかのようなタイミングで、菜緒が縁側に現れた。
「おう菜緒。美味しいもの食べてきたか?」
「うん。パスタとピザでお腹いっぱい」
「そうか、そりゃ良かった。悪いんだけど、祖母ちゃんにこっちに準備してくれって言ってくれるか?」
「わかった。おばあーちゃぁーん」
 菜緒は元気よくお勝手に歩いて行った。
「まずは礼を言っておかないとな。色々と助かったよ、ありがとう」
「たいしたことしたわけじゃないですから」
 面会に行って、少し背中を押した程度にしか感じていない豊川は、逆に恐縮してしまった。
「そんなことはない。人は病気になった時、特に入院なんてした時には、少なからずネガティブになるもんだよ。俺だってそんなことはないだろうとタカをくくっていたけど、実際に手術となると、変な方向に物事を考えてしまう」
 百合子も病は気からだと言っていた。豊川は大病を患ったことがないから、ピンとはこない。しかし、その時の紀夫の落ち込み様を実際に見ているから、言われることは理解できる。
「はい、おまたせ」
 二人で面会室での出来事を思い出していると、百合子と菜緒が酒と肴を持って来た。
「あれ!?お酒飲んでもいいんですか?」
 胃を全て摘出したと聞いていたので、豊川は飲食物に制限があるものだと思っていた。
「ああ、控えるようには言われてるけど、全くダメってことは無いんだ。けど、昔に比べたらだいぶ減ったよ。だいたい週に1度ぐらいだな。それも舐める程度に」
「そうなのよ。量が減ったのはいいんだけど、何だか楽しみの一つがなくなっちゃたみたいで」
 百合子も飲み過ぎは困るが、楽しみとしての飲酒も制限されてしまっている現状に、同情しているように見えた。
 豊川も、酒豪とまではいかないが、かなりの酒好きだった紀夫を知っているだけに、病気になった人の辛さを垣間見た感じがした。
「ま、全然ダメってことじゃあないからな。ちょっとだけでも飲めるんだから良しとしないと」
 紀夫は、少量の日本酒をしみじみと眺めながら、半ば溜息をつくように言った。
「そうよ。全部を取り上げられなかっただけラッキーだったと思わなくちゃ」
 百合子はそう言って、夕飯の支度の途中だからと、菜緒を連れて台所に戻っていった。
新緑の季節。爽やかな風に吹かれながら、縁側でゆったりとした夕暮れ時を過ごした。
 他愛もない会話を一時間もした頃、紀夫がポツリと言った。
「終活って知ってるか?」
 就職活動を『就活』と呼ぶのが一般的だが、この場合は『終活』。人生の終焉をどのように迎えるか、自分自身で生前に整えておくことだと豊川は認識していた。
「最近、流行ってますよね」
「ああ。俺も流行っているのは知っていたが、自分にはまだまだ縁遠い話だと思っていたんだ。でも、今回こんなことになって、やっておいてもいいのかなと思ったりもしてるんだ」


離婚夫婦の最初へ 離婚夫婦 35 離婚夫婦 37 離婚夫婦の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前