MOTHER『罪』-1
ねぇ 先生?
先生はきっと恐かったんだよね。
全てを失くすこと。未熟な私から産まれ出る新たな生命のこと。
ねぇ先生?
先生は知ってた?
恐いのは私も一緒なんだよ
私の意志に関係なく育つ腹
激しく襲いくる嘔吐感
自分でない生命が腹の中で蠢き
選択の余地を与えない程に早く迎えくる臨月
私だって恐かった
誰に話すことも出来ず
今か今かと出生の時を待ちわびているこの子と
たった独りで向き合わなければならなかった
ねぇ 先生?
私達の決断を聞いて この子は私を恨むかしら
たとえ独りで産み落としても
私 この子の人生を独りで背負い込んで幸せにできるかな?
本当はね 解ってたんだ
先生の子供が欲しかった
『愛してる』その言葉に ありもしない夢を見た
約束 したのにね
ねぇ 先生?
傷つくの 痛い思いするの恐い思いするの
いっつも女に産まれた私達なんだね
恐怖感 出来たら二人で乗り越えたかったな
ねぇ 先生?
ニュースにはならないけれど。
これで私
立派な殺人犯ね。