第四章 漂着した恋人-4
高校卒業までに何人かと付き合い、読者モデルをしていると聞いて鼻息を荒くする彼氏に求められるままセックスをしてきた。心のどこかで、付き合っていく上での「儀礼」という冷めた考えがあって、性楽というものを感じたことは一度もなかった。
だからプロダクションに誘われた時、仕事以上に本気でないならば交遊関係は精算しておくように言われ、真璃沙は何の苦もなく彼氏も元彼も遠ざけることができたのだった。いつか本当に愛し合う相手が現れた時にイクことがあるんだろうな。真璃沙はリアリティなく、そんな程度に考えてきた。
あの日、得体の知れない快美が爆発して、体じゅうに広がっていった。その性楽の爆心は、嫌悪を催す男茎が捩じ込まれた蜜壷であるわけだから、決して波にさらわれてはいけないと思った。しかし淫蕩に耽る二人の美しい女が、両側から尿も潮も撒き散らして快楽に身を委ね、恍惚たる絶頂を味わっているのを見せつけられると、なぜ自分が我慢しなければならないのか、と疑問を感じ、疑問が生じるや高波にあっさりと押し流された。
一度味わってしまうと、逃れ難い凄絶な悦楽だった。これまでの彼氏は一度射精したら終了だったのに、男は真璃沙を何度も絶頂へ送り込み、何度排泄しても、硬い肉が狭門をくぐって再突入してきた。
「はい、じゃ休憩」
トレーニングは四十五分行われ、十五分の休憩を挟む。理論はよく分からないが、その一時間サイクルが最も効率的とのことだ。
運動によるものなのか、回顧によるものなのか分からない乱れた息を深呼吸で整え、真璃沙はミネラルウォーターを飲もうと壁際に置いていたバッグへ手を入れた。
スマホが光っていた。手に取ってメッセージの発信元を見て、すぐにコーチの方を伺った。
こちらを見ずに何やらノートに書き込んでいる。そうやっていつも真璃沙を休ませている間に集中して事務作業をするのだった。
真璃沙は黙ってスタジオを出た。階段を昇り、行き止まりの鉄扉より屋上へと出る。渋谷駅から離れた街路に建つこのビルの屋上には、大きな室外機が二基あり、ひび割れたコンクリートの床を太い空調パイプが這っていた。
「あ……」
奥に進んでいくと、室外機に挟まれたスペースで土橋がタバコを吸っていた。
金髪をポニーテールに結い、細身のジャージ上下にスニーカー姿で現れた真璃沙を舐め回すように見つめてくる。
「ど、どうやってここに……」
確かにスタジオの場所は教えたが、入口には警備員がいる筈だ。こうやって中にまで侵入されるとは思ってもみなかった。
「あそこが開いてた。不用心なビルだよね」
土橋がタバコを咥えたまま顎で指し示した先に、ビルの横壁に設置された鉄製の非常階段があり、フェンスで作られた扉が開いていた。
「な、なんで……」
次に真璃沙は土橋が来訪した理由を問おうとしたが、
「こっちに来いよ。真璃沙とオマンコしにきたんだ」
と問う前から感づいていた答えを聞くと、ジャージの奥に後ろめたい疼きを感じた。
「い、今、仕事中だし……」
「そんなの知らないよ。真璃沙は俺のオマンコ奴隷なんだから」
土橋はタバコをコンクリートの上に落として靴底で踏むと、「早く来い。……モデル志望の可愛いコなら、ネットにエロ動画が拡散するのなんてすぐだってわかるだろ?」
自分のフルネームまでしっかりと収められた宣誓動画がバラ撒かれたら、モデルを目指すどころか、女として生きてはいけない。対処に迷う時間も与えられずに、真璃沙は長い脚で空調パイプを跨ぎ、室外機で周囲の目線を阻まれたスペースへと入っていった。すぐに土橋が正面から近づいてきて、何も言わずに真璃沙の腹に手を伸ばしてくる。
「あ、あのっ……こ、困るって、い、今は」
ジャージの腰紐が解かれ、回れ右をさせられる。
「困るって何が?」
「レ、レッスン中だし。すぐに休憩時間終わる……」
「じゃ、ここでも体操だ。前屈だよ。膝を曲げるな」
土橋が背中を押してきた。胸を触られたり、脚の間を舐められたりするのかと思っていたが、要求してきたのは、それ以上に真璃沙をたじろがせる行為だった。
有無を言わせぬ力で背中を前に倒され、真璃沙は膝を伸ばしたまま前屈していった。膝を曲げずに二つ折りになれるほど真璃沙は柔軟ではなかったから、途中で脚を開かされた。
コンクリートの床に手を付きヒップを土橋に向ける。生まれたての獣のような体勢。さっきまで鏡の中に颯爽としたポーズを決めていたのに比べると、この格好はあまりにも不様だった。
そこへ、スルンとジャージが太ももまで捲り下ろされていく。
「うあっ! ……ちょ、ハ、ハズいってっ……!」
色気のないボクサータイプのスポーツショーツ。そんなヒップを真っ直ぐ土橋に向けている。
「たしかに恥ずかしいな、真璃沙」
スポーツショーツの後ろが掴まれ、これも一気に下ろされる。
「やあっ! ちょ、何コレ……」