第四章 漂着した恋人-14
見ているだけで口内に溢れてくる生唾を呑み込んでいた。
しかし土橋による陵辱は男へと入ってきた男へと引き継がれ、彼が狂気じみた怒りと哀しみに包まれて汐里を犯しだしたのを見て、だいたいの事情が分かった。
汐里は破滅したのだ。
特別会議室で犯されて、奴隷に堕とされて以降、日常の業務で汐里と顔を合わせないわけにはいかなかった。たとえお互い性奴隷に堕ちたのだとしても、自分はリーダーであるのだから、職場においては汐里の上職という立場を崩すわけにはいかない。汐里もまた、特に涼子を見くびってくるようなことはしなかった。
そう、体面上は。
あの日以降、涼子に承認サインを貰いに来た汐里は、恭しく受領するも、お辞儀から上げた口端には侮る笑みが浮かべるようになった。彼女によってマーカーペンを三本も開いた脚の間へ埋められ、思い切り掻き回されて絶頂の潮を飛ばしたのだ。意地の悪い口角は、涼子が決して忘れられないのと同じく、汐里も絶対に忘れることはない事実であることを物語っていた。
そして、いざ土橋の前に二人でひれ伏す段になると、汐里は涼子への敵意を隠そうとしなかった。「ババア」。そんな呼称を用いて。
確かに汐里の方が若く、そして先に奴隷となっていた。それだけのことで、上位に立とうとしてきた。
涼子の方が女ぶりが劣っている、土橋がそう言ったわけでもないのに――
その汐里が破滅したのだ……。
彼女の最期の地となったベッドからこちらへ向かってくる土橋の股間では、足を進める度に男茎が頭を振っていた。
「くくっ……、出しそびれちゃったよ」
ソファの近くまで来た土橋がそう言って男茎を扱いてみせる。「マスク、外していいから、どっちかがヌイてくれるか?」
ヌチュリ。いきり立つ肉幹が鳴らす湿音に胸を高まらせた涼子だったが、土橋の言葉で、気づいた。
どっちか、が。すぐ隣では、汐里よりも更に若い真璃沙が壁に凭れ、腕組みをして立っている。真璃沙もまた汐里が犯される様に昂奮しているのか、顔つきが邪になっているように思えた。
この真璃沙からすれば、正真正銘、「ババア」だ。その呼称に相応しい年齢差だ。
(ううっ……)
先に土橋に取り入らなければ……、涼子が何とかプライドを捨てようとしている間に、土橋が扱く手の動きを更に淫猥にして見せた。
(あ……、んっ……)
土橋が涼子を見下ろしてきていた。いや、正確には涼子の前躯を膨らませている豊かなバストを見つめてきていた。土橋は自分のこの豊かな肌肉で挟みたいのだ。
決心した涼子が口火を切ろうとした時、土橋がクルッと身を逸らした。
(……!)
真璃沙のほうへ。
「真璃沙」
「……ん?」
急に呼びかけられた真璃沙は、奴隷だというのに「タメ口」だった。父親くらいの歳の男に対する口の利き方ではない。
直情的に心の中で批判した涼子だったが、その感慨の正体は、礼儀云々といった道義的なものではない。嫉みでしかないことは自分でよくよく分かっていた。
「今日はどんなパンティ履いてる?」
「……べ、別に、普通のだけど?」
真璃沙の受け答えに、隣で見ていて引っ叩いてやりたい衝動に駆られていると、
「めくってみせてくれ。オカズにさせろ」
土橋は更に男茎を扱く手を早め、真璃沙の下肢をじっと見た。涼子も見た。
脚の付け根から少し下っただけの、「ふしだら」と思えるほどの短いプリーツスカート。だが、その裾からはモデルになろうとしている若い女に相応しく、ピチピチとした美脚が伸びている。
「……はい。み、見える?」
真璃沙は躊躇なくスカートの裾を握ると、腰の上まで捲り上げた。
光沢地のショッキングピンクの小さな布地に、ウエストラインに黒のレースがあしらわれ、サイドが紐になったショーツ。
なんという破廉恥で、聡明さを微塵も感じさせない下着を履いているのだろう。
自分ならば……。
だがいきおい惨めな気分になった。
スカートの中に見えた真璃沙の下肢は、涼子よりずっと狭幅だった。瑞々しい肌はひたすら滑らかに広がっており、不安なほど布地が小さく派手な下着は見目良く飾るワンポイントとなって、頭ごなしに下品だと罵ることはできない。
クチュクチュと土橋の幹が音を立てている。先走りの汁が漏れている。この主は、こういった類の下着が好みなのだろうか。
肉感勝る自分のヒップでは、こういったショーツを履いて魅せることはできない。真璃沙の下肢が、着こなしとはこういうことだ、と誇っているように見えてきた。
「んっ……」
スカートの中を覗かれて自慰の種にされている真璃沙が、下唇を噛んで小さく呻いた。屈辱だろうか? だが涼子は真璃沙のプリーツの裾が揺れたのは腰のヒクつきであることを見逃さなかった。
「エッチなパンティだねぇ……おいしそうだ」
土橋はもう、本気で自慰をしていた。視姦自慰などで、今日最初の射精を迎えるつもりだろうか。