第二章 報復されたシングルマザー-13
再度よく通る声で叱責された汐里は、涼子から顔を背けた。だが抱えた脚は離さなかった。
その態度に驚き、足首に太いベルトが巻きつけられていくと、涼子は更に暴れ、もう一方の脚で保彦、汐里もろとも蹴ろうとしてきた。
「ぐっ!」
甲にヒールがヒットして激痛が走ったが、保彦は怯むことなく涼子の足首にベルトをしっかりと留めた。肩で息をつくと、傍らの汐里も大きく息を吐いて脚を離す。
「何なのっ! あなたたちっ。外しなさい!」
足首を重ね合わせ、ヒールに引っ掛けることで枷を外そうとするが、ベルトは堅牢にバックルを通っているからビクともしない。
「無駄、ですよ。宮本マネージャー」
ジャラジャラと鎖を鳴らし擦り合わされる脚線美を鑑賞しながら、保彦は汐里を連れて反対側の脚の方へ回っていった。
「ど、どういうつもりよっ、これ。……ひ、広瀬さんっ!」
下唇を噛んではいるが、涼子を無視した汐里には立ち尽くしていた時の蒼白から血色が戻ってきていた。
「どういうつもり、って、……わかるでしょ? 宮本マネージャーほどの方ならね」
肚を決めて押し黙る汐里に代わって保彦が答えてやる。
涼子は目を見開き、或る一つの答えが思い当たると言葉に詰まった。
そうそう、これだよ。
胸を透かせた保彦はピッタリと閉じて揃えられているもう一方の脚に手をかけた。涼子が触れられるや否や我に返って再び抵抗を始める。
「汐里」
今度は皆まで言わなくとも、汐里はテーブルに覆いかぶさるように伏せ、膝の辺りに腕を通して押さえつけた。涼子は脚を暴れさせて抗おうとするが、既に枷を付けられているから鎖の長さが足りず、蹴り上げることもできなかった。
「ほら、そんな脚バタバタさせたら、宮本マネージャーのスカートの中、見えちゃいそうですよ、ここから」
ベルトを巻きつけつつ、下方から舐め上げる目線を向けてやる。すると羞恥に紅潮するあまり脚の抵抗が緩んだ。
下卑な男にスカートの中を覗かれるのは屈辱だが、それを躊躇すれば物理的な抵抗ができない。そんな葛藤に囚われた涼子の表情は、保彦の満足感と、土橋の男茎を著しく刺激してきてくれる。
(どっちみち結果は同じ、なんだけどな)
保彦はほくそ笑んで、容易くベルトを巻き終えた。
テーブルの上で、涼子は両手を上げたまま手足全てを鎖で繋がれた姿となった。鎖は張られてはいないが絶妙の長さで、手を下ろすことはできないし、肩幅以下に脚を閉じることもできない。計算通りの尺だった。
「さて……」
まだ鎖を鳴らして身を捩り、この状況を何とかしようともがいている涼子の頭の方へ歩んでいって、美貌を覗き込んでやる。視界に土橋の醜貌が入ると、キッとした顔でまっすぐ睨まれた。ゾクゾクとさせられる視線だった。
「外しなさい。誰に向かって、何してるのか分かってるの?」
威厳を保とうとしているのがたまらなかった。
もう欲情を隠す必要はない。保彦は身を屈めて更に涼子に顔を近づけると、臭い息がかかるのを承知で、
「分かってますよ? 宮本マネージャーに向かって……。今、マネージャーが頭の中で恐れてることをしようとしてるんです」
と言ってやった。
「……」
美しい眉が顰められる。この女に、ここまで顔を近づけて美貌を鑑賞することができる男が他にいるのだろうか?
そんな疑問を催すほど悦に入っていると、涼子は目の前の愚漢を睨みつけたまま、
「何が目的なの? こんなことせずに、話し合いましょう。今なら何も咎めないわ」
と懐柔しにかかってきた。
「話し合い? 話し合ったら、マネージャー、了承してくれるんですか?」
「そうね。動物じゃあるまいし、ちゃんと議論したら――」
あくまで気圧されないつもりでいる涼子の言葉に被せ、
「目的は宮本涼子マネージャーの、そのエッチな体です。あなたとセックスがしたいんですよ、セックスを。了承してもらえますか?」
そう言ってやると、冷静さを保とうとしていた涼子が一瞬青ざめ、それから更に強い軽蔑と怒りの色で麗しい瞳を染めていった。
「馬鹿なことを言わないでっ! 頭がおかしいんじゃないのっ!」
「セックス……、いや、レイプですよ、レイプなんです、これは。これから宮本マネージャーは俺に犯されちゃうんです」
テーブルに拘束されていく中で、涼子の頭に即座に過っただろう危惧を、はっきりと明確な言葉を伝えてやると、
「くうっ」
と、遂に土橋の顔を睨み据え続けることができなくなったのか、再び涼子は首を左右に振って肢体を捩らせた。
「くくっ……どうです? 宮本マネージャーほどの方がこんなカッコで犯されるなんて、屈辱でしょう? でも、案外いいかもしれませんよ? お高いマネージャーのことですから、こんなセックスしたことなんてないでしょ?」
「馬鹿っ! 外しなさいっ! 外せ……いやあっ!」