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なりすました姦辱
【ファンタジー 官能小説】

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第一章 脅迫されたOL-7

 だから土橋が、愛梨が主人公の淫夢で勃起していることが腹立たしかった。しかも尋常ではないほどの先走りの汁を漏らしている。
 くそっ、と独りごちてから、周囲を見回した。部屋の中には自分一人だった。土橋は来たのだろうか?
 そんなわけはない。土橋が来たのならば、当然眠りこけている己の体を起こすだろうし、怖じ気づいたにしても、再び外に出て行く理由がないから目覚めるのを待っていただろう。誰も居ないということは、誰も来なかったのだ。
 保彦は溜息をついた。もうすぐ夜になろうとしている。保彦の肉体を制動している土橋はどこで何をやっているのだろう。
 勃起が治まったことに気づいた。タバコを吸った時の肺の痛みと同じく、肉体的な反応は土橋のままなのだ。自分だって愛梨の淫らな姿には興奮するが、ズボンの中が気色悪くなるほど我慢汁を漏らすまでではないから、さっきの勃起は土橋の淫奔なエネルギーというわけだ。
 ちがう、俺は愛梨を、そんなエロ目的だけで見ているわけではないんだ。
 夢の中での興奮の正当性と清廉さを、部屋の中で一人、誰に対してだか分からない申し開きしようとしたところで、胃が縮むような感覚とともに腹が鳴った。空腹感だけは保彦と土橋の間で意見が一致していた。
(……ちょっ、たしか……)
 思い出して財布を見たが、タバコを買った時の記憶の通り小銭が数枚しか入っていなかった。銀行のキャッシュカードがあるが暗証番号はさすがに分からない。今どき生年月日を設定しているなんてことはないだろう。
 立ち上がってキッチンの端に置いてある冷蔵庫へ向かった。だが手を触れただけで通電していないと分かった。部屋の中にはコンビニで買った食料を喰い散らかした残骸がある。扉を開けるまでもなく、中に口にできる物はないだろうし、開けて何を見せられるか知れたものではない。
 財布の中にクレジットカードがあった。デリバリならカード決済ができるはずだ。保彦はスマホを取り出してウェブ画面を開いた。
 なかなか来ないオッサンが悪いんだ。体が元に戻ったらちゃんと返す。
 愛梨を穢された罰の意味も込めて、検索サイトからここを営業圏としているピザ屋を見つけると、ピザとドリンクを注文した。こんな部屋で食うのは嫌だが、外へ出て行っている間に土橋が戻ってきたら時間のロスになる。
 注文を終えてすぐに携帯が震えた。画面上部にアラートがポップアップしている。メッセージの来着だ。
『今日やっぱムリ』
 保彦も使っているメッセージアプリを開いた。アカウントには「リリ」と表示されていた。
 このメッセージの主から、ひょっとしたら今の状況を説明する何かを聞き出せるかもしれない。何にでも縋りつきたかった。
 保彦は反射的に「なぜ?」と返そうとして思い留まった。送り主に理由を訊いたところで自分には是非が判断できないし、たとえ是たる理由であっても了承してしまっては事態の進展には寄与しない。
 短い間でも熟考した末に、
『そう言わずに、頼むよ』
 と打って返した。まずは誘い出すことだ。既読に変わる。
『残業だし。だから今日は会えない』
 なに? コイツ彼女いるの?
 保彦は両手でスマホを握った。恋人ならば近しい人物だろうから、土橋のことをよく知っているだろう。何か好材料が聞き出せるかもしれない。
『残業終わってからでもいい』
『遅くなるから、明日にして』
 そんなには待っていられない。保彦は必死に考えを巡らせた。
 この男の彼女がどんな女かは知らないが、どうせこんな土橋と付き合うくらいだから、同年代の、同レベルのモテない女。……ちょっと優しくしてやればキュンとするのではないか。勝手な、しかも心無い想像から導き出された答えは、
『今日、お前に会いたいんだ。すごく会いたい。会えなきゃ俺……』
 わざと余韻を残したセリフ。だが送信しているのはこの醜男だ。果たしてリリはどう受け取るだろうか。
 既読になったが暫く返事が返ってこなかった。しまった、逆効果だったかと危ぶんだところで、
『どうしたらいい?』
 とフキダシが表示された。
『俺の部屋で』
『あんたの家なんか知らないし』
 付き合ってるのに家を知らないのか? まだ付き合ったばかりということだろうか。いずれにしても土橋に対しての突慳貪な態度が文字からも伝わってきた。土橋ごときの彼女の分際で何だこの女、と瞬間的にイラついたが、免許から素早く転記して送信してやる。
『わかった』
 素っ気ない返事が表示されてから音沙汰が無くなった。仕事に戻ったのだろう。
 保彦はスマホの画面をじっと眺めていたが、溜息をつき、ポケットの中からタバコを取り出して火を灯けた。非喫煙者にとってはたまらなく嫌な臭いだと知っているが、部屋はそれ以上の異臭を放っているのだから知ったことかと、周囲に灰皿代わりになるものは無いか探した。随分型落ちのノートパソコンのすぐ傍に空き缶があった。


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