第一章 脅迫されたOL-25
さも当然の顔で高層階行きのエレベーターの乗り口へ進み、透明のアクリル板で塞ぐ遮断機に社員証を当てると、軽快な電子音が鳴って通過を許された。休職中でも中に入る権利はあるらしい。
「お疲れ様です」
敬礼をした警備員に手を上げ、エレベーターの前に立つと、程なくして一基の扉が開いた。外回りに出掛ける、いかにも上流企業のサラリーマンといった小綺麗な格好をした男女が降りてくる。むしろ場違いなのは保彦――いや土橋の方で、彼らはくたびれた中年に怪訝な顔を向けてきた。しかし、ここでもやはり首から提げた社員証が免罪符となって咎めはなかった。
昇るのは一人だけだった。土橋の会社は四フロアも借りているようだが、知らない場所に行っても仕方がないから、唯一、採用試験で行ったことのある二十八階を押すと、エレベーターが静かに上昇を始めた。ぐんぐん増えていく階数表示を窺いつつ、スマホに向かってメッセージを入力する。
やがて合成音声の女性の声が目的階への到着を告げた。