葵の父親-1
―――春、それは新生活の始まり。
葵たちは高校三年生に進級し、大学受験や就職活動で忙しい学年になる。
奈々子の勤める私立の総合病院でも移動の発表が事前にあり、
彼女は内科病棟に移動の辞令がでた。
運よく看護学校卒業後から彼女の希望していた小児科で数年働けていた奈々子は、
内心移動はしたくなかったがしょうがない事だ。
ずっと小児科で働きたいのなら、小児科病院に行くしかない。
しかし看護学生時代から研修でこの病院で働いていた奈々子にとって、
ここを辞めて他の場所に行く勇気はもてなかった。
自分は冒険心がないなとも思ってしまうが、給料もそれなりに良く、
働きなれたこの職場を辞める理由が特に見つからない。
今まで先輩や後輩たちとは、なんとか折り合いをつけて働くことが出来ているし、
新しい病棟でも、それなりにやってやっていけるだろうと思っていた。