水晶玉の告白-7
別荘の窓から夜気が心地よい風となって潮の香りを運んでくる。部屋の窓際に置かれたあの
水晶玉が窓から見える夏の夜の満天の星屑の光を吸い込んだように朧に煌めいていた。それは
つかみどころのない幾筋もの光の渦となり、複雑な文様を明滅させていた。
水晶玉がきみを待っている…彼は確かにそう囁いたような気がした。え、わたしの何を待って
いるというのかしら。わたしはとっさに呟く。からだに纏わりついてくる水晶玉の光は、まる
で彼の視線となり、幾条もの光の束となってわたしの内奥に突き刺さってくる。
水晶玉の表面に映ったわたしの姿がまるで光の縄に縛られたように歪んでくる。水晶玉はきみ
の告白を待っているのさ。わたしの告白っていったいどういうことかしら。きみの中に秘めら
れた、きみ自身が知らない心の告白…そう言いながら彼はわたしの腰に手をあてる。
朧な光が含んだ不思議な匂いは安河内という男の肉体の隅々まで宿っている。匂いは肌の毛穴
に舞い、体液を澄みきらせる。わたしの掌にまぶすキャリアオイルは無臭のものだ。無臭で
なければ彼の匂いを誘い出すことはできない。オイルをまぶした彼の肌の匂いは気だるく、
物憂く、ときに刃物のように鋭く冴える。
彼の肉体のすべての部分がわたしの指を呑み込みそうだった。わたしの指によって呼吸を始め
た肌……、艶やかな光沢をもった胸郭、麗しい翳りのある窪んだ腹部、肉枠的な腿肌、それら
のすべてが清冽な調和と無駄のない肉感の線を描いていた。強靭で男性的な肉体というよりも、
定からぬ肉体の美しさが、ただ純粋に、無垢に、昇華したものとさえ言えるものだった。
そして、その肉体は、危うさと狂気を孕んでいた…。
濃密な媚薬ともいえる彼の肉体に惑わされるわたしの心とからだは、まどろむような美しい
膜にこされ、麻痺していく。彼に触れているのはわたしだとというのに、触れられているのは
逆にわたし自身だった。わたしが纏っている不要なものをすべて削ぎ落とされ、絞められ、
搾り取られる感覚は、凡庸な物質と化したわたしの心とからだを非凡なものに変えていく。
とても甘美で、淫蕩な疼きとなって……。
オイルをまぶした手を彼の肉体のあらゆる部分に這わせていく。彼はそれを求めたのだった。
窓から差し込んできた月灯りは彼の肌を斑に切り抜く。降り注ぐ煌びやかな月光に操られるよ
うにわたしの指が彼の背中を這いまわり、砂浜に風が描く風紋となる。
彼の背中の翳りから微かな彼の吐息が聞こえる。それは銀河の音楽だった。音楽にあわせて
彼の肌に舞うわたしの指は快楽に酔う。なだらかな背筋の窪みをなぞりあげた指は彼の臀部へ
と向かう。不意に布地で包まれた盛り上がった双臀が揺れたとき、うつ伏せだった彼は、腰を
捻りながら仰向けになる。その瞬間、彼が腰にまとったものがはらりと台から落ち、彼のもの
が露わになる。
…ぼくのものをどう癒してくれるのか…彼は薄い笑いを頬に浮かべながら言った…。
わたしは呼吸を整え、咽喉の渇きを感じながら彼のものに指を触れた。微かに堅さを含んだも
のは、太陽の光を十分に浴びた果実の匂いを漂わせていた。わたしの口の中に生唾が溢れ、舌
が強ばってくる。彼のものはわたしの唇を魅了し、ゆっくりと開かせる。