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水晶玉の告白
【SM 官能小説】

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水晶玉の告白-4

夢で見た客の男は「安河内ジュンイチ」という名前だった。彼の肉体は、わたしがセラピスト
の仕事を始めてから出会ったどんな男たちよりも、純粋で、澱みのない、研ぎ澄まされた性の
匂いがした。歳のころはわたしよりいくつか年上で四十歳前半くらいだろうか。彼は自分のこ
とを水晶玉の占術師だと優雅な笑みを頬に湛えながら言った。

きみのことを占ってあげたい…と彼は言った。彼の肌にオイルをまぶしながら、わたしの何を
占うというのかしらと少し戸惑い気味に言う。彼は言った。それは決まっている…ぼくときみ
の関係がどこまで永遠かということさ。彼が吐いたエイエンという言葉にわたしは曖昧に苦笑
する。


出会いのすべてが彼の視線で始まった。安河内という男は、初めてわたしの客となったとき、
マッサージ台の上でのうつ伏せを促すわたしに対して、仰向けに横たわり、裸の上半身の肌を
誇らしく晒した。締まった頬の線と優雅な鼻梁をもつ端正な彼の顔の中の瞳がわたしを欲しが
っていた。わたしはそれを敏感に、性的に感じとった。厚い胸肉の充実した隆起と毒々しい紅
色の乳首、彫の深い筋肉の溝は腹部へと連なり、窄まった胴体は眩暈がするほど煌めいていた。

ベールのような薄絹の生地が彼の腰を覆い、透けた生地の中に男のものの逞しい輪郭がくっき
りと浮かび上がっていた。初めて彼の肌に触れたわたしの指が小刻みに震えた。わたしの肉洞
の中が収縮を繰り返し、萎み始め、封じられていたものが蕩けるように息づいた。

彼の身体から漂ってくる匂いは不思議なくらい透明な光を孕んでいた。光は水晶玉から与えら
れたものだと冗談交じりに彼は言った。それは禁欲的でもあり、肉惑的な甘美な光でもあり、
じっとしているとまどろんでしまいそうな物憂い気だるさを含んでいた。

彼の肉体の奥底から漂ってくる匂いが孕んだ光は、豊饒すぎる淫蕩なフェロモンを放ち、わた
しの心とからだをゆるませた。彼の肌に指を滑らせ、撫であげ、からだのツボをくすぐるよう
に指圧しているのはわたしだというのに、彼の光はわたしの指先を麻痺させ、わたしが纏う
不必要なものをすべて剥ぎ取っていく危ういものだった。それはなぜかとても懐かしい光のよ
うな気がした。濁りのない、どこまでも完璧に澄んだ光…。その光は決して私を自由にしない
予感がした。



わたしはふと煙草に火をつける。ふだんは吸わないが仕事がない日だけはなぜか煙草を吸いた
くなる。マンションの階下に拡がる街は、昼間の喧騒を忘れ、すべてが薄紫の夕闇に沈んでい
る。    

ふと、彼のからだに初めて触れたときのことを思い浮かべる。指先から伝わってきた彼のも
のが、わたしの肉奥に深く忍び込んでくる感覚…それは触れれば避けたくなり、離れると愛お
しく、とても欲しくなるものだった。わたしは初めて自分の欲望を手に吸い込ませた。指に与
えられる痺れるような感覚は、これまで触れられなかった部分やけっして男に見せたことがな
い部分に拡がり、くすぐり、甘噛みするように啄む。そこはたしかにわたしのからだの一部分
なのに、わたし自身が知らない部分だった。

彼はおそらくわたしのすべてを見抜いていた。わたしのあらゆる部分を支配しようとしていた。
指先から滲み入ってくるものは、股間に忍び寄り、割れ目をすり抜け、空洞をふさぎ、息を
止める。もちろん声を立て抵抗して逃げることさえできない。わたしは彼に囚われ、彼に操ら
れ、やがて彼が見つめる水晶玉の中に封じ込められる気さえした。




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