蜜月は予鈴と共に-2
「山岸先生は、いわゆるアダルトサイトに動画を投稿したことがあるね?」
葉子は目を見開いて絶句した。
この発言は明らかにセクハラ行為ではないのか。
「そういうことをやった経験はありません。あたりまえです」
葉子は悔しさを顔に滲ませ、強く否定した。
いくら教頭といえども、言って良いことと悪いことがある。
ところが、である。
「よく思い出してみたまえ、魔が差すということは誰にでもあるものだよ」
「私はあなたとは違います」
つい感情的に口走ってしまった直後に、いけない、と葉子は自らの失言に慌てふためいた。
「ほほう、それはどういう意味かね?」
「すみません。ですから私が言いたいのは……」
「もういい」
登坂が冷たく切り捨てる。
「先日、うちの学校の教職員がいかがわしい動画をネットに流している、との情報が寄せられたのだよ。もちろん匿名でね」
「その教職員が私だと言うんですか?」
「いや、その疑いがある、と電話の相手は言っていた」
「男性ですか、女性ですか?」
「若い男性の声だったよ。うちの生徒の保護者か、あるいは君に好意を抱いている人物、とかね」
葉子もその可能性は否定できなかった。
確かに、以前から自分のまわりでもおかしなことが起きている。
郵便物に開封されたような痕跡があったり、非通知の無言電話がかかってきたり、夜道で視線を感じることも度々だ。
よっぽど警察に相談しようとも思ったが、近頃はその警察官ですら信用できなくなってきている。
スカート内の盗撮、児童買春、強制わいせつや強姦など、その手のニュースを聞かない日はない。
ひとたび腐りかけた組織というものは、もはや腐敗の一途を辿るしかないのだろう。
この小学校でさえこうなのだから。
とにかく、と言って登坂は腰を浮かせた。
「我々としても事実関係を確かめないわけにはいかなくてね。君のことを色々と調べさせてもらったよ」
得意満面な教頭を見て、全部この男の仕業だったのだと葉子は愕然とした。
どうりでおかしいと思った。
「山岸先生に是非とも見てもらいたいものがある」
そう言って登坂は自前のタブレット端末をちらつかせた。
学校一の美人教師である山岸葉子をついに追い詰めたのだ、さあ覚悟したまえ、と。
「ここに映っている人物が誰なのか、それを君の目で確かめて欲しいのだよ」
葉子の返事も待たずに着々と準備を進める登坂。
タブレット端末を起動させ、そこに映像を再生させる。
「これなんだがね」
登坂は液晶画面を葉子のほうへ向け、反応をうかがった。