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追憶のアネモネ
【その他 官能小説】

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蜜月は予鈴と共に-1




重厚なドアの前で立ち止まり、山岸葉子(やまぎしようこ)はノックするのを躊躇った。

呼び出された理由はわからないが、相手が相手なだけに、いつも以上に用心しなければならないと思っている。

用件の内容にもよるだろうけれど、できるだけ手短に済ませたほうが無難であることは間違いない。

葉子は背すじをぴんと伸ばし、深く息を吸った。

そしてノックを二回。

やや間があって、入りたまえ、という威圧的な声が返ってきた。

どうやら先方はかなり機嫌が悪いようだ。

「失礼します」

葉子は一礼してドアをくぐった。

窓辺に立つ教頭──登坂光雄(とさかみつお)の背中が見える。

西日の差す、放課後の校長室である。

「あのう、お話というのは?」

葉子は上目遣いでおずおずとたずねた。

だが登坂はすぐには応じず、窓のブラインドを閉めると葉子を振り返り、勿体をつけるように視線を一巡させた。

そして女性教師の整った顔を見るなり、

「そこへ座りなさい」

と、来客用のソファーに目をやった。

まずは葉子が腰を下ろし、それからたっぷり時間をかけて登坂が対面に座る。

校長が不在のため、ここぞとばかりに威張っているのだった。

「山岸先生は、この学校に赴任してきてから何年になるんだったかな」

「二年になります」

「そうか、二年か」

まだまだ新米じゃないか、という台詞を登坂は呑み込んだ。

「教頭先生、私に至らないところがあれば、何でもおっしゃってください」

真摯な姿勢の葉子である。

清楚な装いがよく似合っている、と登坂は鼻をふくらませる。

「山岸先生」

「はい」

「君は、我が校にとってなくてはならない優秀な人材なのだよ」

返す言葉が思いつかず、

「いいえ、そんな」

と、葉子は謙遜した。

「聞くところによると、不登校だった生徒たちが君を信頼して心を入れ替えたそうじゃないか」

「ええ、まあ」

誉められるのがあまり得意ではない葉子である。

「どうやら君は、生徒やその父兄だけでなく、地域の人たちからも幅広く支持されているらしい。私だって山岸先生の指導ぶりには一目置いているのだよ」

「おそれいります」

葉子は伏し目がちに返答した。

教頭の顔がにやついているのがちょっと気になるが。

「それだけに、今回のことが残念でならない」

この言葉の意味するところが葉子にはわからない。

だが首を傾げるわけにはいかなかった。

とぼけるな、と叱責されるのがオチだ。

そこへ登坂が言う。


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