両方好き-2
「あの、若葉ちゃん?」
「……。」
下校する僕ら、しかし彼女は何処かぶすぅーーと不機嫌だ。
「どう、したの?ひょっとして僕、何かしちゃた?だとしたらゴメン。」
「…別に、何もしてないでしょ。」
首を縦に振る、少々力なく。一体どうしたってんだ。
「…風馬君、昨日一昨日は楽しかった?」
「え…うん!とっても楽しかったよ!」
佐伯君との楽しい思い出を考えたら一気に気分が良くなり、彼女も知りたがっているらしいので勢いよく語った、だがそれが逆効果なようで。
「だから彼、とってもいい人なんだ、優しくて笑顔がとっても素敵でさ。」
嘗て彼女が彼を好きだった時によく言っていた台詞を言う。
「彼の事、好き?」
「?うんっ!だぁーーい好きだよ。」
「………。」
ぶすぅぅーとした顔がどんどん酷く深まり。
「…私よりも?」
「え、何言ってるのさ、君も好きだよ…。」
「昨日、本当は私と買い物に行くの、忘れてたでしょ。」
!!そうだ、すっかり忘れてた、彼女も佐伯君に会いに行くのは知っていたけれどまさか
一泊する何て予想外だったのだろう。
「もう結婚すれば?佐伯君と…、。」
「若葉、ちゃん。」
言葉には直接出さないけど、佐伯君とばかり付き合うのが卑猥で仕方ないようで、というかようやく何に不機嫌なのかようやくわかって。
「浮気者、ホモ!」
「ち、違うよー、そりゃー確かに彼の事は好きだよ、だぁーい好き、とっても顔がカッコいいし色白で肌も滑々で。」
「や…め…てぇっ!」
浮気って同性でもアウトなんだ、にしても彼女がここまで怒るとは、正直悪い事した。
「御免なさい。」
「……。」
子供っぽく謝罪した。
「佐伯君、かぁーいやー思い出す度、昔を思い出すな、今でもホント不思議。」
「そうだよねぇー、最初は邪魔な恋敵って思ってたのに実はすごく良い人で。」
あの後、大丈夫かなぁー、ちゃんとお風呂入ってるかな?ちゃんとご飯食べるかな、学校でも楽しく笑ってるかな……はっ!
僕とした事が、彼女の眉間のしわが険しくなっているのに気づく。
それから少々乱暴に僕を抱きしめる。
「私だけを見て!彼は親友、私は恋人、それでいいじゃない!」
「若葉、ちゃん。」
「もう!仲が良いのは素晴らしいけど、仲良くなりすぎっ!」
違う!親友じゃないかけがえのない大親友だっ!…そう言おうと思ったけどややこしくなるのでやめた。
「好きよ、風馬君。」
「僕もだよ。」
昨日佐伯君が僕を抱きしめてくれた、彼…良い匂いしてたなぁー、柔らかくて可愛い腕してて…。
駄目だなぁー僕は、彼女がこんなに愛してくれているのに佐伯君の事しか考えていない。
「……。」
思考を読まれたか、急に抱きしめるのを止め、「ケータイ出して」と手を出しもはや逆らえない僕は言われるがまま自分のケータイを彼女に差し出す。
「なんで待ち受け彼の浴衣姿なのよ!こんなにアップで!顔も汗だらだらで撮られて驚いてるし。」
それから写真を見ると。
「何さ、彼の顔ばっかじゃない!」
そう、名所の写真や風景は一枚もない、全て彼ばかりを写していた。
「違うよ、ほかにも写したよ!彼の綺麗な腕とか彼のセクシーな胸元とか、彼の割と細い脚とか彼の細い首とか彼の柔らかい太ももとか、彼の本当に可愛いお尻とか。」
他にも僕と手を繋いだ写真とか、食事の時、アーンした写真とか口元に汚れがついてたのでそれを撮ったり…、ほんと佐伯君ったら無邪気で可愛いんだから、ずっと傍に置いときたいくらいだ。
鬼のような形相の彼女、駄目だ駄目だ!何考えてるんだ僕は。
「実は私もね、巴ちゃんの事が大好きなんだ。」
「…知ってるよ。」
急に落ち着きを取り戻す彼女。
「世界中の誰よりもだぁーい好きなの、もう胸は大きいしポニーテールはとっても可愛いし気が強い割に一条君の前だと割と女の子出して。」
「……。」
「スポーツで汗を掻くけどそれも魅力的、もう汗何て私が全部舐めても良い、きっとどの
ジュースより美味しそう。」
鈍感な僕でも薄々理解してきた。
「もう、風馬君なんてほっといて彼女巴ちゃんとずっと過ごそうかなー。」
「それは、ちょ!」
こうして僕らは別れた、若葉ちゃんは伊吹さんと過ごし、僕は佐伯君と24時間ずっと共に過ごした。
これで良いんだ、お互いの為に。
次回、41話に続く。
……
………
「って駄目だってばぁー!待ってよぉー若葉ちゃーーーんっ!」
僕に仕返しをし思い知らせた所で早足で僕の元を去っていく。
「離して!」
「若葉ちゃん。」
何とか追いついて腕を掴むも振り払われて。
「酷いじゃない!別の女の子に普通に浮気されるよりショックだし腹が立つよっ!何さ!
肌が綺麗だの、可愛い顔してるって、同性愛ゲイもいいとこよ!それならジャンルを変えなさいよっ!スピンオフ作品にでもなんでもして。」
何の話?まぁとにかく。
「ホントゴメンっ!」
「……。」
「ちゃんと割り切るから!」
「口だけじゃ。」
僕は奪われたケータイを取り返し、佐伯君が写ってる写真を全て消去した。
「コピーとってないよねっ!!?」
「も、勿論だよ。」
何と強気な、でもそれだけの事を。
「本当に御免、まさかそこまで怒るとは思わなくて。」
「……。」
僕は彼女を抱きしめ、言う。
「もう彼とは会わない、君がそこまで傷つくなら。」
「風馬、君…。ううん私こそゴメン、会うのは別に良いよ。」
常識範囲内で、そう付け足して。
そして僕は自分への戒めを込めて彼女を人気の無い公園へ連れ出し…ベンチに押し倒し。