自由-3
「誠くん、僕は日本に戻るけれど、ここにいる気はないか?」
ビクトルが突然尋ねてきた。
「することが・・・ないような」
「君はマジャールにいるんだぞ。知らないヨーロッパが東にもあるんだ。ブダペスト大学はエスペラントだけでも受講できる。外国でちょっと勉強したらいい。」
気が付けば、僕はエスペラントとフランス語が話せるようになっていたし、英語も、イーラがいない昼間に勉強して、読み書きができるようになっていた。ハンガリー語など、日本では学べないだろう。周りはポーランド語、チェコ語、ドイツ語、ロシア語、ルーマニア語に囲まれている。どんな人たちがどう生きているのか。僕は俄然、言語学に興味が湧いた。
「手続きなんかは僕がしてやる。ドンブロフスキーさんにも話しておこう。」
「やるよ。タイミングなのかも知れない。」
「ありがとう。」
「なんで?」
「妹と祖母をよろしく。喜ぶし、居てくれたほうがどんなに心強いか知れない。誠くんは友達だ。同志のようにも思えてしまう。」
「また自分の世界に入ってるな。」